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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第二章 白魔女の逆鱗に触れる
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6.図書館の秘密①

 チチチッ、チチッッ

 

 骨董品めいた鳩時計の上でさえずる鳥。その甲高い声が癇に障る。


 俺の慌てぶりを見て笑ってやがる。絶対にそうだろ。


 シーディはナイチンゲールを睨みつけると、自分の周りをぐるりと見渡した。


 ユリカを助けようとして、巨大な手のひらに飛び乗ったまでは覚えているが、この場所は、ミラージュと大バトルを繰り広げていた魔法の国とは似ても似つかない。


 ずらりと並んだ書架。背表紙の装丁が凝った沢山の蔵書。本が好きなシーディにとって、こんな非常時でなければ、ここは恰好のくつろぎの場なのだが……


 顔をしかめた黒いロングエプロン姿の青年が、片手をぷらぷらと振りながら、こちらを見つめている。

 年はシーディより少し年下なのかもしれないが、ここはどう見ても、エプロン姿の料理人のいる厨房とは思えない。


 ちぇっ、綺麗な顔してやがるけど、こいつ、男だよな。


「ここはどこで、お前は誰なんだよっ!」


 それはこっちが聞きたい話だと、京志郎はシーディを睨み返した。

 黒のシャツに乗馬服のような裾の短いズボン。灰色の編上げブーツ。まるで中世の国からやって来たようなレトロな出で立ち。そして、背には剣? 京志郎は、突然、手の甲に感じた痛みが、その剣に突き刺されたせいだとは思ってもいない。

 

 何だコイツは。 けど、この服装ってまるで……


 けど、僕は()()()()()()()()()()()()()は姉ちゃん以外に話したことはないぞ。もしかして、この男って、百合香のコスプレ仲間か何かか?


「お前の方こそ、どこから入って来たんだ! 地震で家も図書館の出入口も塞がってるっていうのに。姉ちゃんの友だちだとしても、怪しすぎるぞ!」


 その時、京志郎の指先を見て、シーディははっと目を見開く。


 絆創膏?


 ……そういえば、ユリカを摘まみ上げた手の指にも絆創膏が貼ってあった。


 鼻をくんくんさせてみると、シンナー臭が微かにする。あの()()()()()手の上に飛び乗った時と同じ匂いだ。

 突然、脳裏に閃くモノを感じ、シーディは、今いる場所の大半を占めている”中世風の城下町”の模型ジオラマに目を向けた。その近くの床の上には、使いかけの塗料や絵筆。ごちゃごちゃした小さなパーツが入った段ボールなどが置いてある。


 ここは、あの玩具(おもちゃ)みたいな町の制作場所……なのか?


 不意に、ユリカと二人で宴会をやった時の会話が頭に浮かび上がってくる。


”これが、魔法書? ……これって、京ちゃんのバイト先の()()()から借りた本なんだけど”

”京志郎は()()()で、すっごく頭とお顔が良くて~、あの子は、()()()()()()()()()()()()()()()()よ”


 はたと顔をあげて、前に立っている青年をもう一度まじまじと見つめてみる。それから、シーディは、ものすごく警戒しながらこう言った。


「……お前、京志郎か……ユリカの弟の」


 立ち上がった黒装束の男。京志郎は対面してみて、彼がとても小柄なのに気がついた。けれども、その漆黒の瞳の奥には、晴れた夜の星のような輝きがある。


 僕はこの男を知ってる。当たり前だ。だって、こいつを作ったのは……この僕なんだから。


 京志郎は戸惑う。けれども、


「僕は相良京志郎だ。相良百合香の弟の」


 彼の質問にそう答え、


「……で、お前は灰色猫グレイ・マウザー……か? 僕が作ったジオラマの国の」


 と、彼に向かって問いかけた。


 その時突然、鳩時計の上のナイチンゲールが高らかな声で歌を奏でだした。



 ”どちらが現実で、どちらが嘘か


   図書館と、ジオラマ国と


   しかるに、異世界の扉は、もう一つ


   案内人は、夜啼鳥(ナイチンゲール) ”  

 

 

 突然、歌い出した鳥の声に驚くシーディと京志郎。

 すると、ナイチンゲールは彼らをあおるように、くるりと大きく身を翻し、図書館の地下から上へ続く螺旋階段の方向へ飛びさっていった。そして、1階の方へ姿を消してしまったのだ。

 不審な気持ちが全く晴れない。けれども、シーディは、あのナイチンゲールが現実と嘘の謎を解く案内人ナビゲーターのような気がして、京志郎に問うた。


「上の部屋には何があるんだ?」

「図書館の受付と開架書庫。……それと、館長室へ続く階段」

「行ってみよう! こんな理不尽をいつまでも見逃すわけにはゆかない」


 ひらりと踵を返すと、絵に描いたような身軽な仕草で、シーディは螺旋階段を駆け上がってゆく。


「ちょっと待って! 僕も行く!」


 そんな彼の後を京志郎は、慌てて追いかけてゆく。

 灰汁色あくいろのマントは身につけていなかったが、黒装束に灰色のブーツの後ろ姿がとても凛々しい。京志郎は、姉の百合香に自慢した自作のフィギュアの出来を思い出し、思わずほくそ笑んでしまう。


灰色猫グレイ・マウザーっていうのは、体は小さくても、精神力こころは抜群に冴えてる。そいつは俊敏で頭脳明晰、おまけに剣の腕も立つ。三拍子も四拍子もそろった最高にイカした”魔法使い”なんだ”


「さすが、僕が作った大魔法使い」


だが、この時の京志郎は、全く気づいてもいなかったのだ。自分がシーディの住むジオラマの国で、


魔法大皇帝マジックエンペラー


と、呼ばれ、人々から恐れられている存在だなんていうことには。


  


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