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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第二章 白魔女の逆鱗に触れる
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5.シーディと京志郎

 西の空がだいだい色に染まりだした。空を覆っていた雪雲も風に流されて、今は姿を消していた。

 夕焼け空に一際明るく見える輝きは、宵の明星の一等星か……否。それは近衛兵長ミラージュの天敵 ― 魔法使いのシーディ ―が手にした流星刀ミーティアソードの切っ先だ。


「くすっ、ミラージュ、雪玉の頭だけで転がってる姿だなんて、とんだお笑い草だな。いくら最強の近衛兵長って言ったって、所詮は雪だるまだ。油断してただろ。俺に頭を切り落とされても気づかないなんて」

「シーディ……減らず口をたたきやがって」


 もうすぐ日が暮れる。……そうすれば、剣技では俺はこいつと同等にやれる。だが、体が二分されているままで、夜になるのはまずい。絶対に!


 そんな近衛兵長の心の内を敏いシーディが悟らぬわけがない。にんまりと笑いながら、小柄な魔法使いはズボンのポケットから、とっておきの魔法書を取り出した。


「なぁ、ミラージュよ、これはさ、”ナイチンゲールと紅い薔薇”って児童書なんだけど、ただの子供向けの本だと思うと大間違い。百発百中で使えてしまう呪文が満載の()()()魔法書なんだ……ええっと、そこに転がってる近衛兵長の雪頭を一発で溶かす呪文はないかなぁ」 


 ”百発百中”で魔法を使える自信なんてまるでなかったけれど、シーディはこれ見よがしに本のページをぺらぺらとめくり、意地の悪い視線を雪原に落ちた雪頭に送った。

 近衛兵長ミラージュの脳裏にざわりと不吉な予感がよぎる。


「止めろ!そんなことをして、ただで済むと思ってるのか! 」


「あんたが一巻の終わりってことだけは分かっているけど。でもさぁ、俺って()()()()使()()じゃないから、俺とユリカにこれ以上、手を出さないって誓うんなら、ここは引いてやってもいいんだぞ」


「ふざけるな!似非魔法使いが!」


 軽口をたたきながらも、実はシーディも”ナイチンゲールと紅い薔薇”の中からこの場をうまく切り抜けれそうな呪文スペルが探せなくて、内心は焦っていたのだ。

 そして、ミラージュがミニ雪だるまたちに、炭団の視線で暗黙の合図を送っていたことにも、まるで気づいていなかった。


 日は沈みつつあった。白魔女と黒魔女が入れ替わる逢魔おうまが時がやってくる。辺りには再び小雪がちらつきだした。

 威勢のいい台詞をたくさん吐いたが、シーディは元々は残酷にはなれない性格なのだ。


 ミラージュの命まで取る気にはならないが、かといって、このままでは、いつか返り討ちにあってしまうし……どうしたらいいんだ。俺……。


その時だった。


チチチッ、チチッッ


甲高い声とともに、一羽の鳥がシーディが手にした魔法書の中から飛び出してきたのだ。


「えっ! あれはっ」


 ナイチンゲールっ!!


それと同時に、


「ひやぁああああっ!! 助けてぇぇぇっ!!」


 白薔薇城の方から盛大な甲高い叫びが聞こえてきた。バルコニーに残したままだった百合香のことを思い出したシーディは、慌ててそちらの方向に目を向ける。そして、瞳を大きく開いて空を見上げた。


 おいおいおいおい……何だよアレはっ?!


 夜が近づき群青色に染まりだした天空。その雲を突貫工事の柱みたいに突き破って、巨大な白い手が伸びてきているではないか。それは、白薔薇城をすっぽりと覆ってしまいそうな大きさだった。

 長い指が、百合香の体を摘まみ上げ、空の向こうへ持ち去ろうとしている。


「ユリカに何しやがるっ!」


 流星刀を背中の鞘に仕舞うと、身軽なシーディは、ぴょんぴょんと近くの木を伝って白薔薇城のバルコニーに飛び移った。そして、巨大な白い手の甲の上で、再び剣を引き抜いた。近くで見ると百合香を摘まんだ手の指には、絆創膏が貼られている。 つんと鼻をつくようなシンナー臭がする。


「ええいっ、 ユリカを放せえええっ!」


 力任せに、シーディは巨大な手の甲に流星刀を突き立てた。その直後、


『痛あああああっ!!!!!!!』


 凄まじい地鳴りのような声が天上から轟き、シーディの鼓膜を大揺れに揺らした。眩暈がする。気が遠くなる。それから、自分の体が上へあがってゆくような妙な感覚に襲われた。助けようとした百合香の声が下へ下へと遠のいてゆくような気がして、シーディは焦った。

 頬の横を掠めてふわりと何かが飛んでゆく。


 ……ナイチンゲールだ。


 次の瞬間、小柄な魔法使いは、どさりと腰に強い衝撃を感じた。


*  *


「ん? 俺……どこかに落ちたのか」


 変だな。さっきまでは、昇ってゆくような感覚しかなかったのに。


 回りを見渡し、きょとんとシーディは目を瞬かせる。綺麗に張られたフローリングの床。ずらりと整列した書架には沢山の本。

 そして、極めつけて驚いたことには、その部屋の中央にある小さな城下町 ― 1/150スケールのジオラマ ―。


「これって、俺たちの魔法の国か。けど、これって、小さいオモチャみたいだ。何なんだ……これは。それに、ここって、どこなんだ」


その時、


「お前っ、誰だ!」


 かたや、さらさらの茶色がかったボブヘア―。図書館員の制服のソムリエっぽい黒のロングエプロンが似合う色白の少年。彼こそが、ジオラマの国の製作者。


「お前こそっ、誰なんだよ?」


 一方は、黒髪、黒い瞳、黒装束で腰には剣。小柄だが、その正体は、大魔法使い”グレイ・マウザー”の孫。


 それが、出会いだった。


 魔法使いシーディと、相良京志郎との。



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― 新着の感想 ―
[一言] 現実と幻想が入り混じっているため、展開が全く予想できず、読んでいる間ずっとワクワクしていました! これから先どうなるのか、とても楽しみです!
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