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スペルドキャッスルの雪宴  作者: RIKO(リコ)
第二章 白魔女の逆鱗に触れる
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3.白薔薇城の戦い②

 猛毒を含んだ雪玉が、お姫様の顔面、めがけて飛んでくる。


「ユリカっ、避けろっ!目玉が溶けちまうぞ!」

「えーっ、目玉焼だなんてっ、そんなの、嫌あああっ!」


 俺だって、可愛い女の子の目玉焼きなんて見たくもないよ。けれども、百合香の運動神経は超トロくて、俺の魔法は目下品切れ中。ミラージュは物凄く手ごわいときてる。


 バルコニーの白薔薇の花が、じゅっと嫌な音をたてて溶ける音が恐怖を誘う。飛んできた毒雪玉が一瞬にして、花を焦がしたのだ。

 シーディは、身を低くしながら苦し紛れに百合香が着ているドレスに向かって叫んだ。


「ベルベット、緊急事態だ。頼む、助けてくれ!」


 ”よっしゃ!”とばかりに、ベルベットはぶるりと武者震いした。そして、突然、白光スパークした。

 そのとたんに、百合香の純白のドレスは、白銀色のバシネット付き甲冑(プレートアーマー)に姿を変え、毒雪玉をピンポン玉のごとく弾き飛ばした。


「おおっ、さすがは、ベルベット!」


 ”ベルベット”は、もともとは、シーディのマントで、けっこうな魔法の力を持っている。

 ドレスだろうがマントだろうが、ベルベットも魔法使いの端くれだ。あるじに頼まれた時には物凄く頑張るのだ。だが……


「これ、重いぃ! どーにかしてっ」


 ドレス姿から全身が金属の武装バージョンに衣替わりした百合香は、身動きが取れず、軍事博物館の展示物みたいにバルコニーに立ち尽くしている。それでも、聖女ジャンヌ・ダルクの白い甲冑(アルヌアブラン)姿めいた眩いオーラ。シーディは、百合香を変身させたベルベットの魔法力が、ちょっと羨ましくなってしまった。


 何たって、飛んでくる毒雪玉を全部、弾き飛ばしてしまうんだからな。


「ユリカっ、不便だろうけど、ちょっとだけ我慢してろ。こうなったら、近衛兵長のミラージュを狙うしか策はないんだからっ」


 そう、羨ましがっている場合ではないのだ。

 けれども、毒雪玉が鼻をつく刺激臭を放ちだした。もう、呼吸をするのも難しい。


 魔法が品切れの今、不本意でも戦う術は”剣”しかないのか。


 シーディは、腰に帯刀している流星刀ミーティアソードを引き抜いた。剣で差しで戦えばミラージュとも互角に戦えるかもしれない。けれども、魔法をこよなく愛するシーディは、なるべく、剣は使いたくなかったのだ。


「……だが、どうする? 飛んでくる毒雪玉を全部避けながら、ミラージュのいる場所に行くことなんて、不可能に近いぞ」


*  *


 一方、近衛兵長ミラージュは、巨大な雪の顔についた黒炭の眉をしかめ、一向に陥落しそうにない白薔薇の城を苦々しく見上げていた。

 頬に斜めからあたる日の光が苛立たしい。南西の位置にあった太陽が西に傾き始めているのだ。あと小一時間もすれば日が沈む。


 白魔女と黒魔女が交代する逢魔時おうまがときがやって来る。


まずい。日が落ちれば戦力も落ちるし……第一、俺は夜は好まん」


 焦り始めたミラージュは、部下の雪だるまたちに向かって、声を荒らげた。


「一斉射撃だ! 日が暮れるまでに毒雪玉吐ききってしまえっ!! あの薔薇の城ごと、奴らを腐らせてしまっても構わない!」


 そして、巨大雪だるまの近衛隊長は、白魔女の呪いがかかった()()()()()()を腹の底から噴き出した。



*  *


「待てよっ、待て、待てっ! その攻撃は反則だろっ!」


 白薔薇の城のバルコニーの影から近衛兵の動きを窺っていたシーディは、超大型の毒雪玉を目の当たりにして、絶望を感じた。


「ああ、もう駄目だ。俺、 もう、死んだ……ベルベット、せめて、ユリカだけはお前が守ってやってくれ!」


 だが、


「ん……?」


 冷え込んでいた空気が妙に温かく感じるのだ。

 廻りにはたちこめる湯気。


 シュワッシュワッッ!!

 

  強いシャワー音が聞こえた直後に、白薔薇の城を襲ったはずの雪毒玉が見る見るうちに消えてゆく。その時、シーディは、はっと、家の前に待機させていた、もう一人の魔法使いの存在を思い出してしまったのだ。


 まさか、これって? いや、あいつだって、魔法の力を持っている。


「リンナイっ、お前かあっ? 俺たちを助けてくれたのはっ!」


 ”リンナイ”


 それは、百合香の実家の相良家ご自慢の24時間風呂の名だ。

 シーディの声に呼応して、白薔薇の城の中庭にどかんと陣取ったバスタブは金の猫足でパタパタと嬉しそうに足踏みをした。

 そして、雪だるまの近衛兵たちに向け、熱く沸かした風呂の湯の砲撃をド派手に吐き出した。


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