1.騎士物語まがいの二人
『”CASTLE”! 建て! このお姫様に相応しい美しの城!』
体は小さいけれど、博学。剣の腕はめっぽう立つけど、魔法の力は気まぐれ。
そんな魔法使いのシーディが唱えた呪文が、雪の森に響き渡った瞬間に、雪よりも煌びやかで、樹氷よりも高貴に輝く白薔薇の城がジオラマの国に現れたのだ。
ディズニーランドのシンデレラ城を白薔薇模様に染めあげたような美しの城。そのバルコニーに立つ百合香の胸元の深紅の薔薇だけが、唯一の色をなし、ものすごく目立っている。
「うわぁ!! 私、まるで白薔薇の城のお姫様!」
バルコニーに立った亜麻色の髪の少女。真冬の風の冷たさが、その頬をより明るくピンクに染めて、銀のティアラの輝きが麗しさを付け加えている。
シーディは、百合香の姿に眩し気に目を細めた。
ちょっと信じられないけど、この城って、元々は小屋みたいな俺の家だったんだよな。……で、これは全部、俺がかけた魔法なんだよな。
おいおい、俺って、すごくないか。
そう思うと、失いかけていた自信が復活して、めきめきと胸に沸き上がってきた。
今、自分が居るのは、夢のような白亜の城。バルコニーに立つのは麗しの姫。
ついさっきはユリカを躊躇わせてしまったけれども、ここにいる俺の立場を盛り上げたければ、それなりの儀式をやるのが、流儀ってもんだ。
古今東西、さまざまな文献を読み漁っているシーディは、その知識の中から最もイカしてそうな儀礼をピックアップすると、即、実行した。
「ユリカ、愛しの姫」
シーディは百合香の右手をとると、おもむろに彼女の前で膝まづいた。
「……え? え、えっ?」
ちょっ、ちょっと待ってよ。そんな中世の騎士みたいなことをされたら、私、舞い上がってしまう。
戸惑い思わず、手を引っ込めようとする百合香の右手を強引にぐいっと引っ張ると、シーディは、百合香の手の甲にそっと口づけた。
「ひゃぁぁっ」
その瞬間、百合香は素っ頓狂な声をあげてしまった。さっきのキス未遂の件は別としても、現実のコスプレ舞踏会でだって、こんなどきどきする経験はなかった。まさかまさか、自分がファンタジ―の中のお姫様みたいに扱ってもらえる日がくるとは。
膝まづいたまま、自分に真摯な眼差しを送っている騎士。心臓がトキめきすぎて、彼の顔は、恥ずかしくて見れない。けれども、手を握っているシーディの方もテンションが上がりすぎてしまっていたのだ。
駄目だ。今日の俺は……場の空気に飲み込まれ過ぎてる。
久々に大きい魔法を発動させてしまった時は、特に注意が必要だ。過去にも身の丈に合わない魔法を使ってしまった後に、シーディは必ず後悔した。
「あ、ごめん、ユリカ。俺、やっぱり、ワインで酔っぱらってたみたい。だから、今までのことはもう忘れて」
「……」
「なっ」
「……別にいいけど」
どきどきした気持ちが、まだ心の奥に燻っている。
けれども、百合香とシーディは、割り切れない気持ちを隠すように、互いにそっぽを向いてしまうのだった。
* *
ジオラマの国の南の森に聳え立った ― 白薔薇の城 ― で、麗しの姫と魔法使いが、中世騎士物語まがいに盛り上がっていた同時刻。
北の丘の皇宮にある尖塔の窓から、南の方向に、突然現れたゴージャスな城を見据えて、身を怒りに震わせていた白魔女がいたのだ。
白魔女といっても、言われるところの”愛と慈しみの魔女”とはほど遠く、その心は氷のことく冷ややかで残酷だった。
背がおそろしく高く、2mはあるだろうか。襟元が大きく開いたドレスを身に纏っている。真珠の首飾りも、土星の輪のように体を取り巻いている雪の結晶も、釣り鐘のような形をしたベルスリープの袖も全身が白だった。
「許すまじ、許すまじ……この皇宮より華美な城を立てることなど」
瞳を怒りで赤く充血させた白魔女は、皇宮の中庭に呼びつけた近衛兵の隊長に、ヒステリックな怒号を浴びせかけた。
「近衛兵長ミラージュ! この間抜け! あんなに手を抜くなと言っておいたのに。さっさと南の森へ行って、あの小賢しい魔法使いを殺しておしまい! さもないと、お前の仲間は一生、雪だるまのまんまだよ」




