プロローグ お人好しと街の少女
僕は、お話が好きだったんだ。恥ずかしいけれど、魔法使いとか、戦士のお話が。僕は、魔法使いにはなれなかったんだけどね。
けれど。僕は、戦士にはなれたんだ。あんなに好きだった、とても強い、戦士に。なのに。僕の力は、人を殺すことにしか、使えない
でも、少しでも、人を救えるなら。僕は今日も人を…殺す。
「あの……」
ここは町▪リリカ。その町の一角にて、少年(まだ幼い12才くらいだろう。)は足を止めた。
「お願いですっ。石を買ってもらえないでしょうか。」
振り返るとそこには自分より幼い子供(8才くらいだろうか?)が、小さな時計を持って
立っていた。
「うーん…」
「お願いですっ!何日も、ごはんを食べていないんです!」
少女は悲鳴に近い声を出す。確かに、少女の体は痩せ細っていた。
「1つ何円だ?」
「いえ‼お金はいりませんっ」
少女の言葉に、首をかしげる。でも少女は笑っているだけだ。
「ただ、この石を貰ってもらうだけです。そうしたらお金が、ごはんが、もらえます!」
少年は不思議そうに花を見る。すると、気づいてしまう。石の中になにかが入っていることにことに。それは確か、盗聴機、と呼ばれるものということに。
「あれ…貰ってくれないんですか?」
少女は、少年が何も言わないことに気づく。
「お願いします!なんでも、しますから‼私の石を貰ってください!」
多分少女は、あと一週間たてば、死んでしまうだろう。けれど、それでも、少女は他人だ。幼くても、他人、だ。しかも、少年には夢がある。その夢は、いま盗聴機を受け取ってしまうと台無しになってしまう。なら、少年が普通ならば、首を横にふって、立ち去るべきだ。
だから少年は。
「ええっ!いいの?ただでもらっちゃって!全部、くれる?」
少年は、笑顔で手をのばす。そして、少女が一生懸命磨いていそうな石を、嬉しそうに受けとる。
…盗聴機付きの石を。
「ありがとう。本当に綺麗だね。そうだ、少しですまないが、お金を持ってってくれ」
少年は財布を取りだし、お金を少女の手に全てのせる。そして、スキップをしながら石を
大切そうに抱える。
「あ、あの。本当にお金は、要らないんです。ただ…」
「え、そう!?」
少女が困ったように手の中のお金を差し出すと、少年は驚いたように声を出す。
「う~ん、僕、他には…あっ」
少年は自分の姿を見る。すると、少し小さいコートをまとっているのに気づく。
幼い少女にぴったりなコートを持っていることに。
「これはね。自分で作った服なんだけど…。失敗して、ちょっと小さいんだ。けれど、君には…合うかな?」
少女は、少しためらう。けれど、少年がとても嬉しそうに笑うので、つい少女も笑顔になる。少年は少女の出会った時とはまったく違う、幸せそうな顔を見て満足げに歩いていく。
「あの…1つだけ聞いて、いいですか?」
「?」
と、少年は少女の声に足を止める。
「本当に失礼なのは分かっているのですが┈名前を教えてもらっても、いいですか?」
小さな、小さな声で少女は聞く。それに少年は、わずかに口元をあげる。
「僕は、伝説…かな。」
「えっ?」
少女はとまどうが、少年は独りでにいい続ける。
「僕は。ただの、人間。けれど王」
少女は少年を困ったように見る。すると、その横顔はとても懐かしさを覚える。
「僕は戦士」
そう、その横顔は。伝説でもあり。人間であり。そして王の。
「僕は、アーサー。アーサー王だ。」
アーサー王に、とても似ていて。風が、吹く。
「ッ!待って、アーサーさん!」
少女が呼び掛ける頃には。
もう、風と共に少年は消えていた。