<12話> 「邪神と主神と再会と」 =Eパート=
かつてルイダの祖母が経営していた冒険者向けの宿は「グリフォンの爪」であった。
そしてルイダは親類の経営する宿「グリフォンの翼」にて、住み込みで働いていた。
「爪」が冒険者向けであるのに対し、「翼」はフリズスではなくフリードに在ることもあり、旅人向けの宿である。
私とイリーナは聖母教の御所で、グリフォンの翼の場所を聞き出し、向かっていた。
中央通りを歩いていると、ただ歩いていただけなのにも関わらず、凄く他人の視線を感じた。
街の者たちの注目を集めたかの様に。
「しまった。聖母教の高級そうな装束のまま来てしまったから……なのかな?」
特にイリーナは綺麗な青髪に整った顔立ちの美少女で、それでいて純白で刺繍が可愛いドレスを着ているのだ。
(そりゃぁ、気になって見ちゃうよね。女の人から見ても超かわいい訳だし)
「そうかも知れませんね。浮かれていて、着替えるなどという事をすっかり忘れていました」
「はは、イリーナ。私なんて街に入る前から浮かれていたわよ」
「そうなのですか?」
「まぁね」
「では、宿に着いたら着替えましょう」
「そーだね。こんな事なら、馬車を断らなければ良かったかな……。いやいや、あの馬車の方が目立つな」
「そうですね」
イリーナは口元を手で隠し、にっこにこだ。
注目を集め、歩いていると近くに馬車が止まった。
(ほら、おいでなすった。イリーナに寄り付く悪い虫!)
面倒だとは思いつつも、無視したらもっと面倒な事になると思い、その場で立ち止まる事にした。
おそらく貴族なのであろう。
馬車からは年配の男性執事が降りてきた。
そしてそれに続き、金髪ロングヘアの男性が降りてきた。
「あ、乙女ゲーのイケメンキャラだ」
いかにも、イケメン王子様といった感じだった。
(私、その手のゲーム、殆どやらないんだよね。
それよりはゾンビ撃ちまくったり悪魔斬ってた方が性に合うんだ……)
「お嬢様方、どうなされました? この様な往来を徒歩で。宜しければお送りいたしますが」
私はイリーナをかばい、隠すように前に立ち、答えた。
「お心遣い、ありがとうございます。でも問題ありません。目的地は目前ですので」
イケメン王子は、私の後ろのイリーナを見た。
(ほらやっぱり! お母さん許しませんよ!)
「失礼致しました。聖母教のお嬢様方でしたか」
「ええ、まぁ、その様なものです」
「貴女の焰の様な赤い髪に釣られ、つい馬車から降りてしまいました事、お許し願いたい」
「へ?」
(あれ? 口説かれているのは私? え!? イリーナではなく、私なの?)
「えっと……」
(あぁ、エアルでは目を合わせたら殺される女、みたいな扱いだったけれど……。口説かれて、悪い気はしないわね)
「これは、私とした事が困らせてしまった様ですね。では退散し、次に会う機会がある事を神に祈ることと致します。またお会いいたしましょう」
そう一方的に告げて、イケメン王子は馬車へと戻って行った。
「イテテテ」
私はこの世界に来てから、久し振りの痛みを感じた。
イリーナが麒麟の髭で私の脇腹を背後からチクリと刺していたのだ。
「お姉様、浮気はダメですよー!」
「痛いって。てか、誰に対するよ、浮気って……」
イリーナは膨れっ面になっていたので、私は膨らんだ頬の左右両方を指先で押してみた。
「んんッ?」
私はさっきのイケメン王子を真似て言った。
「お嬢様、そんなに膨れていては、綺麗なお顔が台無しですよ」
「もー。お姉様、そんな事で私は、誤魔化されま……されますね」
イリーナはデレていた。
(お~い、イリーナ、口元……)
Fパートへ つづく




