<12話> 「邪神と主神と再会と」 =Dパート=
私たち三人は帝国領である貿易都市エアルから、ヴァーラス王国の王都フリードへ向かった訳だが、それには当然理由があった。
八英雄の弟子でドルイダスのエルドリナは、私たちに新たな占いを届けてくれたからだ。
それは師である八英雄のエルドルナの未来視「月詠み」程ではないにしろ、予言というより、運命の宣告に近い。
そして宿命とも思えるそれを告げる為、エルドリナは私たちの居る貿易都市エアルの商会ギルド総会会場へと赴いてくれたのだった。
内容を告げる。
一つ、聖母教の総本山に危機が訪れ、壊滅する
一つ、彼の地において、世界の運命を左右する出会いと別れが訪れ、選択を迫られる
一つ、新大陸にて獣人の神格が誕生し、世界を更なる破滅へと導く
一つ、世界は滅び終焉の時代が幕を開け、やがて人々は英雄を求める
以上の四つだ。
ホテルで待機していたエミアスにも、その予言を告げると、共に総本山を目指す事になる。
予言を届けてくれたエルドリナに、エミアスは心底感謝をしていた。
宗教の壁など、そこには存在していなかった。
ステフ、ウィリアムさん、ゴブリンのフリック、そしてエルドリナに別れを告げ、エアルを立つ事になった。
ステフはそりゃぁもう別れ際に、うわんわん泣いていた。
こっちまで貰い泣きしそうだった。
イリーナは再会を約束し、笑顔で泣いていた。
ソフィアとスパスは、一度洞窟エルフの国へ戻らなくてはいけないとの事で、王国の港町ガレーナの辺りまで2日掛けて送ってもらった。
そこからは馬車で街道を上り、王都へ来たのだ。
ヴァーラス王国の領土は北と南で別々の海に面しているのだ。
ソフィアとスパスは北の海から東へ進み、自国に着いたら陸路で南下して総本山を目指す。
私たちは王国領内を南下し、南の海から東へ進み総本山を目指す。
ソフィアたちのルートは、途中の陸路で山脈越えの必要があるのだとか。
スパス曰く――
「え? 山脈越え? エルフなら余裕っすよ」
「え? ソフィアは大丈夫かって? 何言ってるんすか化け物ですよ。山なんて一跨ぎですぜ」
――だそうだ。
なお、その後スパスはこの発言が元で、生死を彷徨う事となったのは言うまでもない。
そして私リル、イリーナ、エミアスの三人は現在に至るのであった。
また、これまでの旅の目的は3つであった。
これはMMORPGで例えるのなら、グランドクエストやメインミッションといったところだ。
1つ、魔王城の上空を目指す。その為に魔王に対抗できる仲間を探す。
2つ、聖母教の総本山へ行く。その為にイリーナを知るエルフの聖母教徒を探す。
3つ、大規模転移の謎を解く。私がこの世界へ転移した謎とも関連している。
2つ目はこう改変される。
2つ、聖母教の総本山へ行く。そして窮地を救う。
本来であれば、総本山を一目散に目指すべきではあるのだ。
だが、まず私たちは道中最大の、王都にある聖母教団にて情報を集める事とした。
何故ならば、聖母教の総本山は、魔王が最初に現れた場所の更に東側であり、既に魔王軍に占領されているかも知れないからだ。
そんな場所にノコノコ三人で行った日には、何も果たせずに袋叩きにあって、即敗走するのが関の山だ。総本山だけにね。
ここ王都フリードにある聖母教の御所にて、エミアスは情報を集め、精査している。
一つ既に判明している事実は、総本山との特殊な魔術による通信が、既に二週間以上前から途絶えているという事だ。
それは魔王の手の者に通信が妨害されているからなのか、あるいは総本山に何かあったからなのか、それは分からないのだそうだ。
ともあれエミアスは明日、王城へ赴けるよう手配した。
今日のところは、私とイリーナは手が空いていた。
「ねぇ、お姉様?」
「ねぇ、イリーナ」
「あれ、お姉様も同じ事を考えていましたね?」
「ええ、そうかも知れないわね」
私とイリーナは、おでこを合わせ、じゃれ合った。
「フリードと言えば、ですよね?」
「そう、フリードと言えば……」
「グリフォンの翼!」
イリーナは手を合わせ、浮かれた声で発した。
「そうそう、ルイダに再会できるかも知れないね!」
私もつられて、嬉しさが声に滲み出てしまう。
「元気でしょうかね?」
「そうだと良いね」
Eパートへ つづく




