<12話> 「邪神と主神と再会と」 =Cパート=
着替えが済み、出発するので私たちが馬車のソファーに腰掛けると、修道女であるアーシャは端にある一段低い木製の椅子へと座る。
この後、馬車はフリズスを抜けフリードへと入ると言う。
堺には検問所があるが、フリードの市民であれば、検問は必要なく、身分証の提示だけで通れるのだとか。
もっとも、我々は聖母教の馬車に乗っているので超法規的処置により検問の必要がないのだとか。
法律より宗教の方が上なのだそうだ。
(まぁ、検問所の人間だって、ユニコーンが引っ張る馬車なんて検問したくないでしょう。何かあったら自分の首が飛ぶわけだしさ。それも物理的にね)
この世界における教会のシンボルは十字架ではなくアルファベットの「U」の下部に棒が付いた、音叉の形をした物であった。
聖叉というのだとか。この世界独自の物だ。
そしてこれは聖母教だけでなく、新興宗教の聖導教なども同じシンボルとの事だ。
修道女アーシャは色々と教えてくれた。
向かっているのは、フリードにある神殿のその隣にある御所なのだそうだ。
聖母教の神殿は神の住まう場所である為、儀式の時以外は基本的に殆ど人が居ないとの事だ。
そしてなんと先月、その神殿に魔人が現れたのだとか。
アーシャはその時、神殿で使い魔に操られてしまい、それを八英雄に助けていただいたのだそうだ。
「あぁ、知ってる! 二刀流の八英雄でしょ。名前は確か……フェリア!」
「お姉様……、それはスパスさんが間違えた名前です。自信たっぷりで言わないで下さい。
それにしても、よく憶えていましたね、間違えた方を……。才能の無駄遣いですよ?」
「えー。で、何ていう名前だっけ? 戦乙女ヴァルキリーだからキュリアだっけ。合ってる?」
イリーナではなく、アーシャが答える。
「そうですリル様。キュリア様で合っています」
「わーい」
「でも、どうかお気を付け下さい。襲った魔人は、イリーナ様を連れ去るのが目的だった様です」
「お姉様……」
「追っ手か。ついに来たか。いや来ていたのか」
(イリーナ……というより、中にいる邪神が狙いなのだろうな。あぁ、そうだよね。魔王軍からヘッドハンティングしたの私だし、私の責任かな?)
イリーナは悲しみと慈しみを込めた声で言う。
「アーシャさん、ごめんなさい。私の所為で……。辛い思いをされましたね」
「勿体無きお言葉。私は大丈夫です。それに、実はあまり憶えていないのですよ、私自身。何と言いますか、夢を見ていた様な」
「そうですか。私も同じ様な境遇にあった者として、何かアーシャさんのお役に立てるかもしれません。困った事があったら、遠慮なく言って下さいね」
アーシャは頭巾を脱ぎ、深くお辞儀をしてきた。
布で纏められた薄栗色の髪と、顔の輪郭が全て露わとなった。
「イリーナ様、お心遣い、ありがとうございます。ご覧の通り傷も癒え、困っている事もございません。どうか、ご安心下さい」
その言葉を聞き、イリーナの曇っていた顔に、少し陽が射した。
「と、そういえば、これは困り事ではないのですが、あの一件以来……私の魔力量が格段に上がりまして、こうして護衛の任に」
今まで黙って話を聞いていたエミアスが口を開く。
「それはおそらく、魔の物に囚われた影響です。恐れず受け入れれば、いづれアーシャの……己の力となることでしょう」
「大司教様、ありがとうございます。私、精進いたします」
そう言い終えると、アーシャは再び頭巾を被り、修道という道へ戻っていった。
(アーシャもいつの日か、司教にクラスチェンジ出来ると良いね。クラスチェンジに必要なアイテムは、どこで何を倒せば出てくるんだろね。オークかな? コボルドかな? あれ、良い話だったのに……、私だけゲーム脳で台無しだわ)
またしてもアホな考察を加えていたら、馬車が御所に着いていた。
(あれ、もしかして私、うかれてた?)
Dパートへ つづく




