<12話> 「邪神と主神と再会と」 =Bパート=
王都フリードは、外側に更に街があり、フリズスというのだそうだ。
私たちはそのフリズスに、いつの間にか入っていた。
街道沿いは長く商店で埋まり、そして城門も検問もない。
どこからがフリズスであるのか、曖昧なのだ。
「これ程の規模になると、さすがに魔獣どころか、野生動物すら寄って来ないのでしょうね」
その疑問にはエミアスが解答してくれた。
なんでも、フリズスは年を追う毎に拡張しているのだとか。
200年以上前はフリードの城郭周りの露天商という程度だった。
そして100年前には現在のフリズスがほぼ出来ていたそうだ。
その後は街道沿いに街が広がり、魔物対策として商人の組合連合が取り仕切り、街道沿いの商店の外側に塀が作られたのだとか。
そして現在は、塀の更に外側にも商店が出来、何層にもなり複雑に入り組んでいるのだとか。
「フリズスの外側は、中央通りから外れたら迷路なんだねー。私、入ったら出てこられない自信があるわ」
「お姉様は転移魔法で直ぐに戻れますでしょ」
「あー。なんかさっきから、イリーナってばー。私をイジメるんですよ。エミアスお母様」
「え、そこで私ですか……」
エミアスは困った顔を浮かべる。
「うふふ」
「あはぁ」
「もう、お二人とも仲が宜しい事で」
エミアスの困った顔は、笑顔へと変わっていた。
私たちはフリズスの街での待ち合わせをしていた。
エミアスが予め、フリードの聖母教会へと連絡を入れており、迎えが来る手はずとなっていた。
待ち合わせ場所である組合連合の施設へと赴くと、既に聖母教の純白な馬車が控えていた。
(うわ。これまた王子様が出てきそうな馬車ね。乗るのはちょっと恥ずかしい)
馬車は曲線が目立つデザインでできていた。
もしかすると造船技術が応用されているのかも知れない。
修道女と思しき者が、こちらの馬車に気が付き姿を現し、開口した。
「ご無沙汰しております。大司教エミアス様」
「え」
(大司教!? エミアスが?)
司祭だと思っていたら司教、それも大司教だったのだ。
(それってめちゃくちゃ偉いんじゃ……。ゲームの世界でもアークビショップといえば上位職だし。全てを浄化し癒やす的な?)
エミアスは馬車を停め、挨拶を交わす。
そして車上から、犒いの言葉を掛ける。
「出迎え御苦労。ここまで出迎えてくれた事、感謝します」
「勿体なきお言葉……」
修道女はエミアスに敬意を払う。
そしてエミアスは言葉を続ける。
「皆、聖女イリーナ様の役に立つ事が出来たのです。誇りに思うが良いでしょう」
「聖女イリーナ様!? あの、その、あの、聖女イリーナ様ですか!!」
「ええ。そうです。100年前と変わらぬお姿で、今も我々……いえ、人々の為に尽力、賜っております」
「まぁ、何と」
(うわー。出づらいなぁ……)
「では、後ろに御座す清き天の如き髪の御方が聖女様なのですね!」
「ええ、そうですとも」
イリーナは申し訳なさそうな顔を一瞬だけ私に見せ、そして修道女に聖女然とした姿を見せ、声を掛けた。
「遣いの方、おそれいります」
「はッ」
修道女は舗装された地面に両膝を付け、頭を垂らし、両手を結び聖女であるイリーナに祈りを捧げる。
「どうか面を上げください。そして貴女のお顔を拝見させていただけますでしょうか」
「ははッ」
修道女は祈りを捧げたまま、頭を上げる。
イリーナは笑顔で応えた。
(まるで時代劇を見ているみたい……。そう言えば、水戸の徳川光圀も時代的には今だったか。
確か徳川家康の孫だったはず。RPG終盤の定番、「東の国」が存在してたら、会えたりしてね)
「お姉様? 乗り換えますよ?」
「恐れ入りました。黄門様」
「はい?」
(ていうと、エミアスは助さん? 覚さん?)
「あ、イリーナ、置いていかないで……」
馬車を降りると、イリーナの満面の笑みが出迎えてくれた。
(イリーナは本当に変わったなぁ。これが本来のイリーナなのかも知れない)
私は八英雄エルドルナに、改めて感謝した。
(それからエミアスとの再会により、昔の自我を呼び醒まされているのかも知れない)
私は大司教エミアスにも、改めて感謝した。
「どうなさいましたか? リル様」
エミアスが不思議そうにこちらを見た。
心の中で感謝した直後に本人に見られ、私はちょっとだけ気恥ずかしくなっていた。
「ありがとう、覚さん」
「?」
私たちは馬車を乗り換える。
馬車は一頭の一角獣が引く様だ。
扉を開けると白い馬車の内部は、想像より三倍以上大きかった。
魔術的な処置で空間が歪められ、実際よりも拡張されているのかもしれない。
馬車自体に魔力を感じたからだ。
(ユニコーンの魔力を活用しているのかな?)
馬車の中には、先程とは別のアーシャという修道女が居り、鏡と我々の衣装が用意されていた。
着替えを手伝おうかとアーシャに聞かれたが、丁重にお断りした。
エミアスは白いローブに白い烏帽子。イリーナは刺繍の施された純白のドレス。
私にもエミアスに促され、仕方が無く……そう、これは仕方が無く私は白いロングドレスを着たのだ。
「うぅ。恥ずかしい。この前の学者服といい……」
「よくお似合いですよ、お姉様」
「イリーナの方が可愛いよ。それにそのドレスの刺繍、凄いね! かわいい!」
「ありがとうございます。お姉様……」
そう言うとイリーナは照れてみせた。
Cパートへ つづく




