<11話> 「踠きし者」 =Gパート=
ビニー・ケイルは警備兵に連れていかれた。
その顛末に、我々と役員一同、唖然とした。
ビニー・ケイルに声を掛けた一般組合員は、元雇い主だという。
組合員の暴露により、全てが判明した。
あの男、実は店主ですらなく、小売り店を暫く前に首になり、無職だと判明。
(私の検閲スキルが効かなかったのではなく、本当に「不明」だったのね……)
学者だと名乗っていたが、それもかなり怪しいそうだ。
後の調べで分かった事だが、獣人信仰者でもあった様だ。
獣人を信仰する事それ自体は法的には何も問題ないのだとか。
だが、極めて異端視される行為だと言う。
あの男の事は記憶になかった私だけれど、雇い主の組合員には見覚えがあった。
(あぁ、ホテルのカジノで会話をしてた人達の内の一人だわ……)
事態が落ち着くと、席を並べていた役員の一人が言った。
「居るんですよね。ああいうの。自分で商店すら構えた事がないのに。
自分が学者や評論家になった気でいる。困ったもんですよ」
休憩終了後直ぐに、富くじをギルド全体で行う事が臨時総会で承認された。
その実行員の一人に、提案した組合員であるウィリアムスさんが選ばれたのは、いうまでもない。
ウィリアムスさんと私は、無事に総会が終わると、傍聴席に居るイリーナの元へと向かった。
イリーナの横には、ドルイダスのエルドリナが居た。
合流し、お互いに安堵の言葉を交わした時だった。
人の良さそうなオジさんが話し掛けてきた。
「私はマートックと申します。今回は災難でしたね。
私も組合員であり、商人の端くれです。色々と悲しくなりましたよ」
私たちも自己紹介をした。
マートックさんは今回の富くじ騒動について語った。
「金融や保険を生業としている一部の組合員を除くと、我々は富くじに関しては素人です。
これは厳然とした事実です。ですが、例え自分にとっては面白くない計画案でも、
その計画案を考え出し作る労力は確かに存在しているのです。
素人と言えども、何もしない人よりは凄く立派だと思うんですよ」
そう言うとマートックさんは、一旦笑顔になった。
そして続ける。
「他人の商売や案を批判する事は、もの凄く簡単です。
私の考えですので間違っているかもしれませんが……、批判ばかりする人って、
その瞬間は自分が偉くなったと思い込んでいるのではないでしょうか?」
私たちはその言葉に一層傾聴した。
「だからこそ、自分より遥かに偉いメジャーな商会には、恐れ多くて批判できない。
何故ならば、自分の感性が他人と違うと表明する行為でも有る訳ですから。
そして、先に述べたリスクが少ない我々の様なメジャーではない商会には、
低評価を付けていたりするんじゃないでしょうか? なんと言うか、
小さいプライドの匂いがしないでも有りません」
言い終わるとマートックさんは、今度は困った顔をしてみせた。
私たちはマートックさんの言葉に感心させられるばかりであった。
「それでは、アレクサンダー商会の商いと皆さまが幸多き事を祈って」
マートックさんは、お辞儀をすると人混みの中へと消えていった。
(良いダンディーな、オジ様だったな……マートックさんも商売繁盛すると良いねっ!)
その後ウィリアムスさんは最後私たちに、こう言って締めくくった。
「捕まったあの男には商会や店舗のその先が、見えていなかったのでしょうな。
我々が商売を辞めてしまったら、多くの顧客が路頭に迷う事になるでしょう。
そして我々が雇用している者の家族もまた同様。
あの男が嫌っている我が商会も、多くの人々に支えられ商売を行っている。
支えてくれている人々が居る、その事にあの男もいずれ気が付いてくれる事を願うばかりだ」
12話へ続く
11話をお読みいただき、ありがとうございます。
実はマートックさんには元になる人物がいまして、なろう作者のmrtk様です。
第3次召喚大災害 「拝啓 遥かなる日本の皆様へ」
https://ncode.syosetu.com/n1942ec/
私との対話文の一部使用を快諾頂いた事、この場にて改めてお礼申し上げます。
mrtk様、ありがとうございました。
12話からはいよいよ聖母教編、新章へと突入いたします。
当然キュリアとの出逢いもあるハズです。
章を別けるべきか悩んだのですが、別ける事と致しました。
そして、その新章をもって第1シーズン終了となります。
連載再開が決まりましたら、Twitter等でお知らせいたします。
今暫くお待ち下さい。




