<11話> 「踠きし者」 =Dパート=
元来MMOを問わずRPGにおいての経済状況はインフレしていくのが一般的だ。
例を挙げると分かり易い。
最初の街で「どうのつるぎ」が100Gで売っているとしよう。
悪いスライム相手に「どうのつるぎ」ならば苦戦しないだろう。
中盤の街で「はがねのつるぎ」が1500Gで売っているとしよう。
中盤の敵相手には「はがねのつるぎ」が必要なのだ。
お解り頂けただろうか?
実に戦闘に必要な武器の価格が15倍だ。
これが根本にあるという訳だ。
当然、価格だけでなく性能も敵の強さもインフレしていく。
そのバランスを取ることが、MMOならば運営側の、オフラインRPGならば開発側の仕事なのだ。
ヴァルハラ・サーガにおいてもインフレはしばしば問題となった。
買い占めや、原材料の独占による暴騰などだ。
以前述べたハイポーション原材料高騰問題、あれも根底にはインフレが関与している。
あの時はハイポーションのピッチャーを作る事で、運営側は対応した訳だ。
私の手持ちの資金は93億Gだ。
だがもちろん、この世界で使う気はない。
世界経済の破綻が心配だからだ。
自分で国でも興さない限りは必要ない額だ。
もっとも、自分で国を作るなら、自国貨幣は欠かせないだろう。
(まあ、国なんて作らないし……。国取りシミュレーション系は兄に領分だしね。
そう言えば、「家康の野望」を一緒にやったなー)
私は父親が兄にかつて教えていたいた事を思い出した。
(連鎖倒産、バブル崩壊。私たちの世界でも、確か今回に似た様な事があったなぁ……)
微かな記憶を呼び起こす。
ヨーロッパ三大バブル
オランダ「チューリップ・バブル」、
イギリス「xx泡x事件」
xxxx「ミシシッピ計画」
チューリップしか完全には、思い出せなかった。
(歳はとりたくない……。思い出せないや。
イギリスのヤツが平成バブルの語源だった様な……。そのきっかけは……)
「そうだ、富くじ」
「え?」
「はい?」
「お姉様?」
(しまった。声に出てしまった)
場がシーーンとなってしまった。
(ああ、ご免なさい。皆が真剣に商会の心配をしている時にて、想い出に浸ってしまうなんて……)
ウィリアムさんが何か呟き、突然立ち上がった。
「(富くじ、存外、いけるかも知れない。いや……)それだ! もはやそれしかあるまい!」
「へ?」
こうして、私の一言にこの商会の運命が託されていくのであった。
(あぁ、お父様。今貴方の声が聞こえる。「影響力のある人間は、発言に気を付けなければならない」という言葉が身にしみて分かりました。これはパパから3万円をせびった娘への罰なのでしょうね……。助けてイリーナ)
アレクサンダー商会の系列であるホテルには、カジノがある。
この国ではギャンブルの営業がどう認められているかをステフに確認した。
国に許可を取り、それに対して税金を収めているのだと言う。
ちなみに2050年代である現代の日本において、ギャンブル税はない。
大雑把に言ってしまえば、公営以外は禁止されている為に存在しない。
話が逸れたが富くじは、江戸時代の日本では神社仏閣の修繕費に充てられた、現代で言うならば、その代表は宝くじだ。
ウィリアムさんが言うには、富くじの発行自体は法的には問題ないのだそうだ。
ただ、商会の組合に報告する必要があるのだとか。
後々揉めない為に、予め根回しがいるのだという。
(なるほどね)
ウィリアムさんは一晩考えると言う。
実は明日、大手の西方商会が不渡りを出した件について、全組合員公開の緊急総会が開かれるのだそうだ。
そこで、この富くじ実施について報告する算段だという。
なお普段の会議は密室で数十名で行っているそうだ。
そして何故か、私にも発案者として紹介するので出席して欲しいと言ってきた。
(まじかー!)
Eパートへ つづく




