<11話> 「踠きし者」 =Cパート=
「そう言えば、エミアスは術を発動中の様ですけれど?」
イリーナが話に割り込んできた。
(ナイスだ。イリーナ)
「ええ、イリーナ様。あいにく魔力が不足していまして。宜しければ、お力を」
「もちろんですよ」
イリーナは両膝を付き、祈るように両手を重ねているエミアスに、自身の両手を添えた。
次の瞬間、村の至る所で光柱が現れた。
(これは!)
死者甦生魔術だ。
それも十や二十ではなく、優に百を越える数だ。
(まさか、村で死んだ者殆どに掛けたの?)
光柱は一つ一つ、徐々に消えていく。
さながらダウンロード待ちのファイルの様だ。
――死んだ人間が甦る。
ゲームでは日常的な出来事であろう。
現実で起きたらどうであろうか? まさに神の如き力の奇跡。
そうとしか言い表せない光景が目の前で次々に起きているのだ。
(私の事を太陽神と言ったけれど、この人の方がよっぽど神がかった偉業を成し遂げているよ)
全てではないが盗賊まで復活している様だ。
(どの野盗を生き返らせるか、エミアスは選定して行使した? まさか?)
さらに疑問が湧く。
(しかし、これは慈悲なのであろうか?
裁きは村に任せるのであろう。罪により再び死ぬ事もあり得る筈だ)
エミアスのその意図が、私には結局断定出来なかった。
だけれども、分かった事もある。
エミアスが何故この国に居たのかだ。
それは、活発化した獣人の調査の為に新大陸へ渡る術を探してこの国へ来ていたのだという。
そして偶然、この村へ立ち寄っていたそうだ。
(運のない野盗たち……。偶然に偶然が重なり、躓く。人生では良くある事だ。私は真摯に生きるとしよう)
この地方で、祭司であるエルドリナは顔が利く様だ。
村人の事後処理などは、彼女とその配下に今後は任せる事となった。
私たちは、置いてきたコテージとヴェレネッタ、フリック、馬車と運転手を回収並びに合流した。
その後、私たちはエルドリナを送り届け、再び商会のある貿易都市エアルへと戻ったのであった。
私は馬車の側面にある霧の掛かった窓ガラスに顔を近付け、街の様子を眺めていた。
出立前と比べ、街がざわついている様に感じたからだ。
私たちは、ステフと共にはアレクサンダー商会の本店にやって来た。ステフの父であり商会長のウィリアムさんに今回の報告をする為だ。
私とイリーナ、フリック、そしてステフは会長室に案内された。
するとそこには、頭を抱えて椅子に座っているウィリアムさんと、紳士服姿で帳簿をめくり算盤を弾くホブ・ゴブリンがいた。
「ただ今、戻りました。お父様、どうなさいました? 何か問題でも?」
「あぁ、ステファノか。それにリルさんとイリーナさん」
抱えていた手を解き、私たちと挨拶を交わす。
「お邪魔いたします。お取り込み中でしたら私たちは席を外しましょうか?」
「いや、問題ない。寧ろ聞いて貰った方が良い。何か思い付いた事があれば、言ってくれ」
「わかりました」
「うむ。実は帝国御用達の大手商会、西方商会が不渡りを出してな」
「えええええ。お父様! それ大丈夫なんですか!?」
「ああ、駄目なのだよ。ステファノ」
「え? え?」
「何もしなければ我が商会は、連鎖倒産する事になるのだ」
(うわー。聞きたくない話だった……)
ステフまで頭を抱え、質問する。
「それで、それで、西方商会は……負債額どの位だったので?」
「うむ。帝国通貨で約三百億。王国共通貨換算だと百数十億Gだ」
「ひー。普通に小国の国家予算位の額じゃないですか」
(えっと、宿代や食事代の相場から考えると一兆数千億円の負債か。うわ、大きいね)
「それで我が商会の損害額はどの位なのですか?」
「概算で五億だ」
「ごっ、五億!」
(という事は、Gなら二億ちょいで、二百億円の負債か)
この「G」と書いてゴルと読むのは、ヴァルハラ・サーガ内の基軸通貨と同じだ。
概念的にはユーロや、歴史で言うならば永樂通寳の様な存在だ。
貨幣から紙幣への転換は当分先であろう。
この世界においては、1G=(イコール)100円といった金銭感覚だ。
GMの私は、自室に戻れれば資金など自在に操れるただの数字でしかなくなる。
テストサーバー内でお城を買って戦争シミュレーションをしたり、NPCの給与水準を設定し直したり、運営ならではの使い方があるから自分で変えられるのだ。
Dパートへ つづく




