<11話> 「踠きし者」 =Aパート=
私はスパスを凝視した。
「なんすか、姉さん」
視線を感じ、スパスが答える。
私は続け様に言う。
「女だわ」
「俺、男っすよ」
そんな、馬鹿なやり取りの小一時間前の事だ。
私は森エルフのスパス、魔剣師のソフィア、貿易商会御曹子のステフと共に、野盗に襲われている村へと到着した。
私たちは、武器を持って往来している者を片っ端から捕らえていった。
この惨事の中、武器を持ってなお無事なのは野盗側であると判断したからだ。
捕らえた中に村人側の人間がいたとしても、問題ないであろう。
多少手荒であるが、ただ捕らえただけなのだから。
もし野盗側の内通者がいた場合、村人と判断してしまうリスクもあるわけだが。
それは後の問題として、先送りする事とした。
やり方はこうだ。
野盗を発見、ソフィアが剣の腹や柄の部分、あるいは素手で殴り、怯んだところを私が転移魔法でスパスの前に強制転移させる。
スパスは直ぐさまロープ等で拘束する。
スパスの前でも元気にやんちゃした者には容赦ないクロスボウの一撃が身体に刻まれた。
「うん、本当に容赦ないな……」
バケツリレーの様に、次々と拘束された野盗が運び込まれ、それをステフが監視する。
ステフの洞察眼、商人の眼は確かだった。
私たちは野盗を捕らえる際に、不思議な魔術陣を何度か見た。
そして幾人かの村人も救出した。
救出した村人の内の何人かは、ステフの野盗監視を手伝ってくれている。
近場の野盗は捕らえたので、今度は村の消火作業へと移行した。
水魔法が使えると良かったのだが、誰も使えなそうだ。
「水魔法で消火したいのだけれど……」
私はソフィアやスパスと顔を見合わせた。
「前衛だけじゃん。何だよ、このバランスの悪いパーティーは!」
ソフィアに聞いてみた。
「水属性を付与した斬撃なら」
スパスに聞いてみた。
「水属性を付与した射撃なら」
という訳で、井戸の水を使って消火する事となった。
樽を井戸に投げ込み給水。
転移魔法で水の入った樽を火元上空に転移させ、水を残し樽だけ井戸に転移。
水が上空から降り注ぎ消火。
またしてもバケツリレー。
(正確には樽リレーかな?)
ほいほい転移させて、椀子そばの如く、おかわりが続く。
(異世界で魔法の世界のハズなのに私、何をやっているのだか……)
「イリーナ、早く来て。エルドリナも来てくれないかなぁ……」
暫くしてやっと鎮火してきた。
この村は、最初に想定していたよりも随分と大きかった。
中央広場の向こうに、まだ少し火の手が見えた。
火元の方を眺めていると、白いローブを纏ったエルフが目に留まる。
錫杖を持ち、野盗と戦っていた。
1対5で苦戦している様だ。
錫杖で野盗の攻撃を防ぎ、殴りつけてはいるが、致命傷を負わすには到らない。
私は直ぐさま、転移魔法でエルフの助けに入った。
「大丈夫ですか?」
エルフと私で、野盗を挟み撃ちとなった。
突然現れた私に、野盗はとても動揺している。
私は抜刀しようと柄に手を掛けた。
だが、剣を抜く前に野盗が次々と倒れていく。
「おほぉ?」
風切り音だけは聞こえていた。
夜で見えづらかったが、よく見ると野盗の体に細く黒い棒が突き刺さっていた。
クロスボウの短い矢、ボルトだ。
「攻撃、エグっ……」
「All Enemy Down」
(やっぱりスパスだったか)
「姉さん、どうっすか? 俺の十八番、睡眠魔術の付与されたボルトは。凄いっしょ? やぁ、本来は魔物とかの狩りに使うんですがねって、おや? そちらは?」
同族のエルフが見えた安堵からか、白ローブのエルフは、片膝を付いて倒れかける。
「おいおい、大丈夫か?」
スパスが心配して、直ぐに駆け寄った。
そしてスパスも片膝を付く。
エルフが何かを呟いた様だが、弱々しく、こちらまでは聞こえなかった。
代わりにスパスが告げた。
「火を消してって言ってます。それと、何か術を複数発動している最中の様で、かなり疲労していますね」
「そうね、とりあえず火を。火を消しましょう」
「そうっすね!」
Bパートへ つづく




