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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第三章 2節   <10話>
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<10話>  「天翔る星の煌めき」   =Hパート=


私は村へと向かったので、ここからは後にイリーナから聞いた話だ。



イリーナは母親の傷の状態を確認した。

村からの明かりは、少し影こそあれど治療するには十分だった。


子どもには外傷がなさそうだ。

イリーナは子どもを抱えようとした。


だが子どもは、母親にしっかり抱かかえられていた為、容易には抱えられなかった。


「失礼いたします」

セバスはそう言うと、母親の腕を優しく剥ぎ、子どもを左腕一本で抱かかえた。


「ありがとう。セバスさん」


「いえいえ。礼にはおよびません」


イリーナは直ぐに治療を開始し、呟く。

「気を失っていても必死に護ろうとする、母親の強さというものを感じました。

 今度は私が、この者の命を護らなければなりませんね」


セバスは目を細め、言葉を発っせず笑顔で答えた。


イリーナによる治療は直ぐに終わった。


イリーナは立ち上がり見つめる。多くの者が焼かれたであろう村を。

「『人は盗人、火は焼亡しょうぼう』とは嘆かわしい事です」


イリーナの呟きに、セバスが答えた。

「人を見たら泥棒と思え、火を見たら火事と思え……、といったところでしょうか?」


「ええ、そうですね。そういった意味でもあります。お姉様の居た世界の言葉だそうです」


「そうですか」


イリーナはセバスの方を向かずに話を続ける。

「人というのは何とごうの深い生き物なのでしょう」


そう言うとイリーナは、今度はセバスの方を向く。

セバスは無表情で、子どもを片腕で抱えていた。


「本当に酷い有り様。この様な業の深い人類、滅んでしまえば。ねえ、そう思いません? セバスさん」


「そうですね」

無表情のまま、即答するセバス。

だが直ぐに目を閉じ、お辞儀して言い直した。

「失礼いたしましました。失言ですね。そう言う事を語れる立場ではありませんでした。私はただの使用人ですから」


「そう、ですか」

イリーナは淡々と返す。


「ええ、そうですとも」

セバスは明るく返す。


「では、そういう事にしておきます。貴方が、お姉様に仇なさないかぎりは」


「お姉様、ですか」


「私からすれば、お姉様の事以外など、どうなろうと。

 もはや些細な事なのです。そこの手の内ある小さな命すらも」

そう言い終わると、イリーナの額に瞳の様な文様が浮かび上がっていた。

そして右手には、GMにすらダメージを通す事の出来る麒麟の髭を手にしていた。


「なるほど、肝に銘じておきます。ですが、宜しいのですか? 聖女である貴女がその様な事を言って。

 それに、先程の母親を救っていた時の貴女の言動行動とは矛盾していませんか?」


「矛盾など、何もございません。順列の問題ですから」


「なる程、『命の重さに優劣を付けている』そう言う事ですか?」


イリーナの声色が変わる。

冷たいながらも妖艶をまとった声に。

「小僧が知った口を……。まあ、良いでしょう。私は『人の命の重さは同じ』などと、申すつもりはございません。

 そうですね、貴方の腕の中の子どもからすれば、母親の命が一番尊いものでしょう。そして母親からすれば、

 その子どもの命は自分の命よりも重いものなのです。それが人というものです」


「聖母教の聖女様らしいお答えですね。私の思慮が浅かったのかも知れません。

 私の命の順列は下位の様ですから、貴女の殺る気が起きぬ内に、私は退散する事と致します。

 坊ちゃまの事は、頼みましたよ」


腕に抱いていた子どもを母親の横に寝かし、セバスは背を向けて立ち去ろうとした。


イリーナの声色が戻り、セバスの背中へ向けて言う。

「お姉様は聡明にあらせられます。ああいう方なので、気が付いていらしても、貴方の事は特段口にはしないでしょう」


セバスはそのまま無言で立ち去った。



イリーナの中の邪神が語り掛ける。

(イリーナよ)


(邪神様、あの者からは、お姉様に近しい感じを受けました)


(うむ。ワシも人や魔人ではないと。だが「魔神ましんではないか?」と問われると……。確かに、そういうふしもある。

 エンキの様な魔神なのか、別の世界の者なのか、ワシには判別できぬな)



あの時の私は、目に映る世界を救う事で精一杯で、セバスが何者であるか、その正体に付いて全く気が付いていなかった。



11話へ つづく

10話をお読みいただき、ありがとうございます。


私の最初の原案では「現代の秋葉原に飛んでエルドルナを見つける」という、よくある話だったのです。

ですが突然、リルが自分の父親に会いに行くと言い出したので、私も慌てて対応いたしました。

結果的には「行ってきます」をリルが言う事が出来たので、私としても本望です。


Bパートが、パパ目線で始まってしまいましたね。

「なろうっぽい」始まりにしてみましたが、あれも当初の予定にはありませんでした。


本当にリルには手を焼かされます。親心としては、そこが可愛いのですが。


さて、章の途中ですがメリハリを付ける為、

一旦の連載休止を挟み11話の連載を再開したいと思います。

連載再開は3月初旬を予定しています。


皆さま、お楽しみに!

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