<1話> 「GMのお仕事」 =Fパート=
程なくして、街道の宿場町が見えてきた。
町の入り口に、柵や門番といったものは見当たらない。
そりゃあそうだ。魔物も存在しない、あんな長閑な平原より続く町なのだから。
問題があるとすれば、ここがテストサーバー内だった場合、ノンプレイヤーキャラ(=NPC)、つまりは人工知能で動くヒトが配置されているのか――であろう。
流石に無人の町で、宿屋や飲食に困るのはゴメンだ。
ゴーストタウンで一夜を過ごすのも虚しい。
けれど、その心配は直ぐに解消される。
ガヤガヤとした町の音が、町の直ぐ外にまで洩れてきていたのだ。
街道の宿場町らしく、道に沿い商店がひしめき合っている。
そして入り口には商店街の様に、看板が掲げられている。
私は看板を読もうと目を凝らしてみた。
「んー。読めん。……何語だよ!」
通常であればそんな場合、町の名前は日本語でシステム表示されるのだが、まだ設定がされていない様だ。
「そこまで、拘って創らなくっても……」
まぁ、そんな細部にまで拘る処こそが、実に我が社のゲームらしい。
(じゃあとりあえず、RPGの超定番、宿屋を探しますか!)
町の入り口付近には、町の住人らしき若い女性NPCがいる。
早速私はそのNPCに話し掛ける。これもRPGの定番なのだ。
「すみません。私は旅の者ですが、どこか宿屋をご存知でしょうか?」
「えっと? こんにちは、旅の方。冒険者さんなのですね? でしたら――」
無事、宿屋の場所を聞けた。
(日本語での会話ができて、良かった良かった)
ただし、不審がられていた様な気がしないでもない。
(好感度値や、名声値、魅力値が初期設定のままで低いから?)
そんな事を考えつつ、私は教えて貰った宿屋へと向かう。
宿屋は「グリフォンの爪」という。けれど店名は読めないであろう。
ゆっくりとした足取りで、宿屋へ向かって歩む私。
町の入り口にいた女性の反応や町の様子を見ていて、一つの疑問が浮かんだ。
「あれ? これって、まさか……。
仮想世界に閉じ込められたんじゃなくて、異世界に転移してんじゃない?」
我が社のゲームにおいてNPCには人工知能、AIが搭載されていている。
NPCたちには、容姿・性別・性格・職業・種族・先祖・家族構成等の多岐に渡る設定がある。
そして、それらのキャラクターメイクを、実は専用のキャラメイクAIとでも呼ぶべき人工知能が行っている。
そうやって様々なキャラを作り出しているのだ。
開発側の人間は、そのキャラメイクAIに対し、ゲームの運営方針に合わせた幅や大雑把な種族を指定するだけだ。
そうしてゲーム内に、何十億ものNPCを、大量生成しているのだ。
だがしかし、目に映る風景やヒトは、GMである私からしても、その範疇を逸脱している様に思える。
たしかに、テストサーバーであれば、あり得ない話ではない。
でもその場合、何かしら社内通達がある筈なのだ。
今回、そんな通達はなかった。
私は更に熟考する。
いや待て。バグでテストサーバー側に飛ばされた線。
その考えも捨てられない。
いつだ?
『配信者:????』の所へ飛んだ時?
あれは夢ではなく現実? つまりは仮想?
それとも、あれは夢で、寝ている間にバグが起きた?
あるいは、ヴリトラ以前からバグが進行していた?
そして、寝ている間にトリガーが引かれた?
様々な考えが浮かんでは消えるも、結論には程遠かった。
「もしここが仮想世界ではなく、転移した異世界なのだとしたら……。
宇田さん、私の尊敬の念を返してね!」
どちらにせよ、現状では情報が不足しているのであった。
Gパートへ つづく
2019.12修正加筆