<10話> 「天翔る星の煌めき」 =Bパート=
私の名は坂神龍一、40過ぎの三児の父だ。
主催していた講習会が終わり、仲間内での居酒屋会議が無事に終了。
タクシーで自宅へと。そして今まさに帰宅したところだった。
「パパ。パパ」
「え?」
(レ、レイヤー? ゴスロリっ娘? 赤い髪と青い髪の女の子が二人。変なのに絡まれたな。外国人か?)
「誰?」
「娘よ。忘れたの?」
「は?」
「お姉様……」
(姉妹なのか? とりあえず、玄関周りで「パパ」とか言われると、あらぬ誤解を受けそうだ。
どうする? 家の中に入れるか? 妻に何て、言おう。 いやいや、それ以前にこんな怪しいのを家に上げる訳には)
「とりあえず、どこか別の場所にでも」
(ファミレスあたりが無難か?)
「おっけー、パパ」
赤髪の女の子が、私の腕を取る。
(む、胸が腕に当たる……。もしかして「パパ活」ってヤツか!?)
「新宿でいっか。あそこなら、私たちでも目立たなそうだし」
(おいおい、せっかく帰って着たのに……。この時間から出たら、何時に帰れるんだよ……)
青髪の女の子が、赤髪の子の腕を掴んだ時だった。
目の前の景色が一転した。
(新宿? 上空?)
そして落下する間もなく、景色が再び一転する。
「あれ? 歌舞伎町?」
(記憶が飛んだ? 時間が飛んだ? キング・クリムゾン?)
私はスマートフォンを取り出し、現在時間を確認した。
(あれ、飛んだのは自分自身? あり得るのか? 超能力少女?)
私は、腕にしがみついている自称娘を見つめた。
(ここ歌舞伎町なら、同伴している嬢とリーマンにしか見えんだろうな)
「どうする? 居酒屋? 何か食べるか?」
私は既に、疑心より好奇心の方が勝ってしまっていた。
「とん茶か、新村さんの所でカツが食べたい……」
「えっ」
(こいつ、本当に娘かも知れん。俺の趣向そのままやん。て事は天駆ける少女的な?)
「ゴスロリ少女と豚カツ屋か……。ラノベのタイトルとしては微妙だな」
(衣装に揚げ物とソースの匂いがこびり付きそうだな)
そして豚カツ屋に入る事に。
二階の席に案内され、三人分の注文を頼んだ。
(居酒屋で〆にお茶漬けとか頼まないでおいて良かった)
「で? 娘だって?」
「ああ、そうね、パパ。もっとも私が産まれたのは何年も先だけれどね」
「未来から来た的な?」
「んー。ちょっと違うかな」
青髪の子が話に入ってきた。
「はじめまして、お父様。私はイリーナと申します。突然押し掛けてしまい、すみません。お姉様には、お世話になっております」
「えっと、イリーナちゃんは俺の娘じゃないんだね」
(お姉様って言っていたけれど、百合なのか?)
「はい、そうですよ」
イリーナが微笑む。
(可愛い子だな。こっちを娘にしたいわ)
自称娘が目を細め、私を見る。
「ジーー」
さらに一呼吸おいて、私に放つ。
「最低」
「おいおい、お母さんみたいな物言いだな。さすが我が娘」
注文したレディースセットがきたので、三人で食べながら話をする事にした。
「私、このカニクリームコロッケ、子どもの頃から好きなんだよね」
「そうなのですね。いただきます」
そう言うと、口にした。
「本当、美味しいですね!」
「でしょ!」
「お父様、ありがとうございます」
イリーナちゃんは
「お箸を使うのは60年ぶり」などと、訳の分からない事を言っていた。
話を戻すとしよう。
なんでも、異世界にゲームのアバターの姿で転移したのだとか。
そしてこの世界へ飛ばされたが、自分の元々いた時代と30年も差があると言うのだ。
ゲーム脳の俺は、何の疑いもなく信じた。
何より実際に新宿へ転移させらた身だからだ。
信じるより、他はあるまい。
(さすが、我が娘だ。“論より証拠”を会って数十秒で親にぶつけてきやがった。鬼畜だぜ。俺は陵辱派だがな。そんな事はどうでも良いか)
まだ産まれていない時代に、本名は言わない方が良いだろうと意見が一致し、未来の私の娘は「リル」と名乗った。
何故、この時代のこの世界に居るのか、自分達にも分からないのだと言う。
今日の宿が無いとの事で、とりあえずネットで予約しようとタブレット端末で探した。
(一瞬、歌舞伎町のホテルを薦めようとも思ったが、俺の倫理観がそれを止めさせた)
「あ、いいよ。そこいら泊まるから」
「へ?」
「その代わり」
そう言うと、リルは左右の手の平を私に見せつけた。
(お金かよ! まあ、必要だよな。それにしてもパパ活って厳しいなー)
とりあえず、財布に入っていた三万円あまりを全て没収された。
豚カツ代は財布の中身が無いので、カードで決済した。
その後、私はリルに転移してもらい、一瞬で我が家に着いた。
娘達、明日はこの時代の秋葉原で遊んで……もとい、観光して来るのだと言う。
明日の夜は我が家に泊まるようにと、私は伝え別れた。
帰宅した私は、妻に聞いてみた。
「ねえねえ。俺が赤い髪の女の子と青い髪の女の子と、帰ってきたらどうする? あ。赤い髪の方が娘ね」
「また変な事、言ってる……」
そして翌朝も聞いてみた。
「そういえば昨日もまた、変な事言ってたね。赤い髪の女の子が……とか」
Cパートへ つづく




