<9話> 「最後のドルイダス」 =Jパート=
(ここが月詠みの部屋か。下の部屋よりも広い空間だ。
って、あれ? エルドリナさん以外に他に誰も居ない。
まさか! エルドリナさんが実は八英雄でしたってオチ!?)
「こちらです」
「ん?」
床に魔術陣があり、緑の光を放ち始めた。
エルドリナは陣の中央に移動した。
そして恐る恐る近寄る私に、エルドリナは手を差し伸べてきた。
「申し訳ございません。機密保持の為、先ほどは『最上階で待っている』とお伝えしましたが、
ここから転移いたします」
「わかりました」
私はエルドリナの手を握り、魔術陣の中へと入って行く。
イリーナは後ろから、そっと入って来た。
私は無意識に転移前の座標を一瞬で読み取った。
もはやGMとしての職業病だ。
魔術陣はエルドリナの魔力が注ぎ込まれ、緑色の輝きが増す。
そして次の瞬間、転移した。
転移先から数歩進むと、天井に星々が描かれた広い空間が、そこにはあった。
私は直ぐさま座標を確認した。
(ほぼ真下の地下か)
そして私は、部屋の中央に強い魔力を感じた。
(この魔力、八英雄!)
エルドリナを先頭に部屋の中央へ移動する。
中央には石の台座があり、その向こう側に、長く白い髪の老婆が居た。
(老いてなお、この魔力か。エルドルナ)
中央の台座の周りには、石でできた支柱がいくつもの立っていた。
「ルナ様、お連れいたしました」
「うむ。ご苦労であった」
「はじめまして、リルです」
「イリーナと申します」
「これはこれは、ようこそお越し下さいました。リル様」
(あれ、イリーナが抜けている……)
「私たちが来る事を既に50年も前から、予言していたと、伺いました」
「左様です、リル様」
「魔王の出現も、予め知っておられたのでしょうか? もし、分かるのならば、ほぼ同時期の転移についても」
「申し訳ございません。リル様。そちらに関しては、殆ど把握しておりませぬ。
それにリル様が、我々のこちらの世界へいらっしゃるという大事に比ぶれば、魔王など」
(このパターン知ってるぞ。魔神エンキの時にあった! てか、別の世界の者だってバレてるし)
「そうですか……。ではここへやって来た、最大の目的の、聖母教のエルフの居場所を占っていただけないでしょうか?」
「リル様、それに関しては、既にリナめが占っておりますぞ。リナが現地まで案内できるよう、手筈を整えてあります」
エルドリナがこちらを見て微笑んだ。
快諾との事であろう。
「恐れながら、リル様。先ほど最大の目的と申されましたが、最大の目的はこちらかと」
そう言うと、私を石の台座の上で横になるようにと勧めてきた。
私は訳も解らず、イリーナと手を繋ぎ、共に横になった。
「冷たっ」
石の台座は冷えていた。
イリーナは寒いからか、私に腕を絡めてきた。
(暖かい……)
「イリーナ様も一緒ですか……。まあ、良いでしょう。それでは、しばし悠久の時を……」
私たちは目を閉じた。
「眩しッ」
スマートフォンに付いているカメラのフラッシュが私とイリーナを襲う。
「おー。映画のイベント? ゲームのイベント?」
「おー。コスプレイヤーが来ているよ」
「日本人?」
「テレビの撮影かな?」
「カメラどこだ?」
「ちょ! 勝手に撮るなやー! って? あれ? 元の世界? 地球??」
とっさに私はイリーナをかばう。
周囲に石で出来た支柱が並ぶ。
遺跡は観光地だった。
「ここってイギリスじゃ?」
――――― ステータス表示 ――――――――――――
2019年 10月23日(水) 14:21(GMT)
特記事項: ハーフターム期間
北緯 51度10分44秒 (51.178889)
西経 01度49分34秒 (-1.826111)
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10話へ つづく
9話をお読みいただき、ありがとうございます。
そしてこの話にて、本編のみでの10万字を超えました。
時間を割き、ここまで読み進んでいただいた読者の方々に
心より、感謝を申し上げます。
今回も予定より長くなり、何シーンかは次話以降に移行させました。
さて、10話ではどういった展開が待ち受けているのでしょうか?
2019年の世界、それは現実なのか、仮想なのか、現実の過去なのか、それとも別の世界なのか?
それでは引き続き、お楽しみ下さい。




