<9話> 「最後のドルイダス」 =Iパート=
<9話> 「最後のドルイダス」 =Iパート=
私たちは案内され、螺旋状の階段を昇って行く。
丁度一周した所に扉があり、それを潜る。
決して広くはないその円錐型の部屋は、外からの光は入らず、壁一面の灯籠によりの照らされ、神秘な感じを受ける。
円形のテーブルがあり、木の実や果物、そして暖かいスープが用意されていた。
席に着くと、奥の扉から、30前後と思われる女性祭司が現れた。
「いらっしゃい。ステファノさん、フリックさん。半年ぶりかしらね。
そして、初めてまして。リル様、イリーナ様。 私は祭司のエルドリナと申します」
「はじめまして。冒険者のリルです」
「はじめまして。聖母教のイリーナです」
「どうぞ、果物などお口にしながら、お聞き下さい」
フリックはブドウを皮ごと口に何個か含んだ。私も暖かいスープを口にした。
山羊のミルクを使って煮込んだスープの様だ。馬車での旅の疲れが癒える。
「実はお二人が、本日こちらへやって来る事は、50年も前に判明しておりました」
「ぶーー」
私は思わず、口に含んだスープを吹いた。
「お姉様、汚いですよ……」
「驚かせてしまい、すみません。我が師の『月詠み』という能力の一端でして」
「ああ、八英雄の」
「ええ、我が師エルドルナ。実はこの建物の最上階である『月詠みの部屋』にてお待ちです」
ステフが思わず立ち上がり叫ぶ。
「えー! 八英雄のエルドルナ様が上に!?」
「ステフさん、お行儀悪いですよ……」
「ごめんなさい、イリーナ様。でもリナ様、僕、会ってみたいんだ……」
「すみません、ステファノさん。今、師は魔力の制御があまり出来なくて……。
あなたはおそらく、師の魔力に当てられてしまい、耐えられないから……」
「うんん。こちらこそ、わがまま言ってすみません」
「師は今、重要な儀式の最中で、それ以外の事に魔力を制御出来ないのです」
イリーナが口を開く。
「エルドリナ様、私の様な聖母教の者とお会いして、宜しいのでしょうか?」
「イリーナ様、私の事はリナとお呼び下さい。
それと宗教は違えど、我々にとっても聖女様に変わりありません。
貴女様の挺身は師より聞き及んでおります」
「ありがとうございます、リナ……さん」
(なるほど。リナさんはイリーナの方が格が上だと)
「それでは、私は師の手伝いをして参ります。
準備が出来ましたら、リル様とイリーナ様をお呼びいたします。
それまで、こちらでお寛ぎ下さい」
「ありがとうございます。リナ様」
「リル様、貴女様に『様』を付けて頂くなど畏れ多い。リナと呼び捨てになさって下さい」
「へ? じゃあ、リナ……ちゃん?」
「それでは、失礼いたします」
そう言うとエルドリナは、奥の扉に消えて行った。
食事を済ませ、一休みしたあたりで奥の扉から人が出てきた。
エルドリナではなく、子どもだった。
それもステフよりも一回り小さな男の子だった。
「お待たせ致しました。リル様、イリーナ様、こちらへどうぞ」
「ごめんね、ステフ、フィック、行ってくるね」
「行ってらっしゃい。どんな方だったか、後で絶対教えてね!」
「わかったわ」
私とイリーナは奥の扉を抜け、再び螺旋階段を昇る。
半周した所で上層階の床へと繋がっていた。
階段を昇り終えると、エルドリナが居た。
役目を終えた使いの子どもは、昇って来た階段を降りて行った。
(ここが月詠みの部屋か。下の部屋よりも広い空間だ。
って、あれ? エルドリナさん以外に他に誰も居ない。
まさか! エルドリナさんが実は八英雄でしたってオチ!?)
Jパートへ つづく




