<9話> 「最後のドルイダス」 =Hパート=
「お父様、凄いですね」
「そうね……」
私は少し元の世界が恋しくなった。
しばし目を瞑る。
そして高校時代に親元を離れ、eスポーツの大会へ出場する為に海外へ何度も渡った事を思い出した。
そして更に幼少の頃、兄のドローンレース大会出場に付き添いドバイへ行った事も思い出した。
(お兄ちゃん……。助けて……。この世界から)
私は目を開け、自分の手を見つめた。
そして自分の胸元を見つめる。
(この身体で帰ったら、家族にはビックリされるだろうな……。たぶん、お父さんは大喜びだろうね。性格的に。なんとなく分かるよ。それと、きっとお兄ちゃんは家にはいないだろうなぁ。今ではお父さんより忙しいしね。私の居ないあの世界は今、どうなっているのだろう……)
それから数時間後、「コンコン」と小窓をノックする音が聞こえた。
(セバスさんか)
私は了承の為、一度コンと叩いた。
すると小窓が開いた。
「失礼いたします。間もなく到着いたします」
「分かった。ありがとう、セバス」
ステフが答えた。
やがて馬車は速度を落とす。
途中で小休憩を挟み、馬車で走ること約4時間。
私たちは目的地に到着した。
自然崇拝のガリア教徒たちの住む集落だ。
ガリア教徒は、世界中で聖導教の力が増し、迫害されていた。
だが帝国本土と比べ、まだこの辺りは聖導教の力が絶対ではない。
ガリア教徒たちは、いつでも移動できるよう、戦場で張るテントにて生活をしていた。
もちろんそれだけではなく、各々のテントが不思議の土壁と植物で囲まれていた。
おそらくドルイドやドルイダスによる魔術で作ったのあろう。
唯一、集落の中央には石で出来た支柱に木材を組み合わせ、
外部はレンガの屋根と藁葺きの壁で出来た建物がある。
そこが、最後のドルイダスの弟子がいるという、ガリア教の教会だ。
ステフが、移動中に教えてくれていた通りだった。
馬車は教会の入口から少し離れた場所に横付けされた。
私たちは、馬車を順番に降りた。
「フリックって、降りても大丈夫なの?」
「オレ、シゴトで、ナンカイも、キテイルぎゃ」
「そうなのね。ガリア教、好感が持てそうだわ」
セバスさんが私に言う。
「それでは、リル様。坊ちゃまを宜しくお願い致します。
おそらく、お持て成しを受けると思われます。
その間、私と運転手は馬車で軽食などをとりながら待機しています」
「ええ、心得たわ」
「じゃあ、行くよ。お姉ちゃん」
ステフを先頭に教会の入口へと歩む。
「お待ちしておりました」
「アレクサンダー商会の方々ですね」
入口で待機していた修道女二人に案内され、私たちは、奥へと進んで行く。
すると、周りの者と明らかに違う、刺繍の入ったローブを重ねて着ている年配の女性が居た。
(あちらが、八英雄の弟子の祭司様か)
「ようこそ、おいで下さいました。それでは、エルドリナ様の元へ案内致します」
(あれ、祭司だけれど、英雄の弟子ではなかったのか)
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