<9話> 「最後のドルイダス」 =Gパート=
間もなくして、商会の馬車が着いたとの知らせを受けた。
私とイリーナは案内され、馬車に乗り込む。
私は黒ずくめ、イリーナは白・象牙系と白銀という格好だ。
(やっぱり、ちょっと恥ずかしい……)
「おはようステフ」
続けてイリーナも、ステフの向かいの席に着く。
「おはようございます」
「お姉ちゃんたち、おはよう」
「オハヨウだぎゃ」
私の向かいにはフリックが座っていた。
「わぁ、リルお姉ちゃん格好いいね」
「ありがとう」
「どこぞの侯爵様かと思ったよ」
「格好いいですよね!」
「ダぎゃ」
「もう、フリックまで……」
馬車の中は笑いと和やかな空気に包まれた。
私の背の辺りの小窓がノックされた。
「歓談中、失礼致します。これより出立いたします。
道中、街を抜けますと、多少揺れますのでご注意下さい」
「じゃあセバス、出してくれ」
「かしこまりました。坊ちゃま」
セバスと呼ばれた使用人は小窓を閉め、隣に座っている運転手へ指示を出している様だ。
運転席は外にあり、一段高くなっており、彼らの腰の位置だ。
こちらからは、あまり見えなかった。
「出っ発!」
運転席の声が聞こえると、四頭立ての馬車は、ゆっくりと動き始めた。
こういう、数人乗りの馬車に乗るのは初めてだったが、サスペンションが効いていて、揺れはするが、ガタガタはしない。
「お姉ちゃんたち、昨日はよく休めた?」
私とイリーナは、顔を見合わせる。
「ええ、ぐっすり。お陰で疲れも取れたわ。ありがとう」
「えへへ」
顧客の満載が得られ、ステフは嬉しそうだ。
さすがは商人。
「そう言えば、夜にバーに居たら、色々と噂を聞いたのだけれど」
私はステフに、聞いた内容を話した。
「んー。噂は本当だよ。ウチは直接奴隷貿易はしていないのだけれど、
取引先が奴隷貿易に関わっていたりすると、余波で他の商会が潰れたりして大変だよ。
ウチも結構な被害額が出ているし」
「そうなのね」
(怪獣が東京湾に出現なんて映画がよくあったけれど、
現実で起きたらその日の内に世界中で大恐慌が起きて、
経済は壊滅的な被害を被るになるでしょうね。
怪獣に直接破壊された街の修繕よりも被害額が大きそうだわ。
でもこの時代は群集心理の読み合いで済むから良いわね。
元の世界では、更にAI同士の化かし合いが加わるから、たちが悪い)
「でも、ステフは凄いわね。その歳で、経済が解るなんて」
「え、そう? そうかなぁ?」
そう言われ、照れるステフ。
「門前の小僧ってヤツだよ。お父様がお友達とかと飲んでいる時に、色々と聞かされて育ったからね」
「お父様か……」
「そう言えば、お姉様のお父様はどの様な方なのですか?」
「お、イリーナ、ストレートだねぇ。そうね……」
私は顎に指を当て、考察した。
「んー。一言で言うと、別の惑星の人? あと、回遊魚の様に常に動き続けていないと死んでしまう人」
「なんですか、それ……」
「母親はよく『パパのスケジュールおかしい』って言ってたわね。
夜、家に帰ってきても、また直ぐに出掛けてしまって。そのまま家に居るのは月に数日だけだったわ」
「お父様、凄いですね」
「そうね……」
私は少し元の世界が恋しくなった。
Hパートへ つづく




