<9話> 「最後のドルイダス」 =Fパート=
「お姉様、おはようございます」
私はイリーナの声で目を覚ました。
「おはよう、イリーナ」
朝の挨拶を交わし、部屋で朝食を済ませた。
商会が用意してくれた部屋は、寝室の他にダイニングと書斎があった。
街の外に出る事になるので、それまでの私服から、冒険者らしい格好に着替える事とした。
私はイリーナに≪風の鎧≫を貸しているので、所有している数少ない本気装備を取り出し、試着した。
黒いコートと鎧が融合したデザインの装備だ。
(うわー。相変わらず中二病デザインだなぁ)
「まぁ、お姉様。素敵ですわ」
「そうかなー?」
「格好いいですよ。赤い髪に良くお似合いで」
「んー。じゃあこの格好なら、魔法の杖にするか」
私はオシャレ装備の杖を取り出した。
杖の先に宝石の付いている、いかにもといったデザインだ。
「はぁ……」
「どうしたのイリーナ?」
「お姉様は、なんでお姉様なのでしょう?」
「へ?」
「お姉様が、もしお兄様でしたら……」
「おいおい……」
「あと、私も格好いいの、欲しいですッ!」
(最近、イリーナが私しか居ないと幼児化する件について……)
イリーナは羨ましそうに私を見つめる。
(姪っ子って感じに思っていたんだけれど、こりゃあ、娘だわ。私もついにお母さんか!)
「はいはい。格好いいの、格好いいの、っと」
私は自分の所持アイテムを思い起こす。
「じゃあさ、盾とかどお?」
「盾、ですか」
「うん、多分……ほぼ最強の盾」
「最強の盾!」
(お。食いついた。本当はあと数段階強化する必要があるんだけれどね)
「イリーナの着ているローブと同じ≪アテーナーの盾≫」
「盾もあるのですね!」
「アイジスの盾、イージスの盾、なんて名前でも呼ばれているわ」
私は何もない空間から、盾を取り出した。
「結構、大きいですね」
盾は男性用の鎧と同じ位の大きさだ。
私は左手を盾に添えた。
取っ手も留め具もベルトも無いのに腕にくっ付いた。
(謎の吸着力。MMOあるあるだ……)
「これ確か、変形するんだよ」
「最強の盾! 変形!」
「こうやって……っと」
盾の側面から収納されていた部分が、腕を広げたように伸びた。
「おおぉーー」
「ねっ」
私はイリーナに渡した。
イリーナは直ぐに装備し、クリスマスプレゼントを貰った子供の様にはしゃぎ、ずっと眺めている。
そして暫くすると、異空間収納にしまった。
「装備しないんかい!」
「だってお姉様に貰った大切な物ですもの! 大事にしまっておきます。傷付かないように」
(盾なのに傷付かないように心配だとぉー!?)
「あぁ、そう……」
私は諦め気味に答えた。
間もなくして、商会の馬車が着いたとの知らせを受けた。
Gパートへ つづく




