<9話> 「最後のドルイダス」 =Eパート=
目を覚ましたら、すっかり日が暮れて夜になっていた。
イリーナは自分のベッドに戻っていた。
(いつの間に……)
まだ起きなさそうなので、日本語で書き置きを残し、私はホテルのバーへと向かった。
イリーナは何故か日本語の読み書きが出来る。
(神の加護?)
私はこちらの世界の文字を多少覚えた。
この世界での識字率は決して高くはない。
最も、ここの様な貿易都市は別であろうが。
字が読めなければ、田舎者と馬鹿に、あるいは学がないと軽視される可能性はある。
この世界での私の会話は、GMのスキルにより自動翻訳されている。
ゲーム内では正確にはラグナサーガのシステム由来の自動翻訳機能により、相互に自動翻訳される。
それと同じ様に翻訳されていたのだ。
その事に気が付いたのは、イリーナと旅を始めて直ぐの事だった。
私はホテルのバーカウンターで、カクテルを飲んでいた。
昼ご飯がジャンキーな物で、あまりお腹が空いていないので、つまむ程度にしたのだ。
このホテルには、会員制のバーがあり、小規模なカジノも併設している。
もっとも賭け事自体に興じる為ではなく、社交場として存在している様である。
後ろの方から話し声が聞こえてくる。
「おいおい、金の相場が凄い事になったな」
「新大陸での採掘量も、落ちているとの噂を聞いた」
「魔王の出現で、新大陸の獣人奴隷どもが反乱を起こしていると聞く」
「しかしこの先、世界はどうなるのだ?」
「帝国も軍備を拡張してはいる」
「そう言えば、帝国は資金調達の為にと国が債券を発行していたな」
「なんでも、例の大賢者様のお知恵だとか」
「あんなガキに財政を任せるとは、帝国も危ういな」
「おいおい、声がデカいぞ」
「大丈夫だって。あそこの赤髪のお嬢さん位しか近くにいないし」
「何言ってんだ、こんな所にお供も付けず来ているのだ。きっとホテル側で警備をしている。あれは相当な身分の者ぞ」
「赤髪……。ネルダーザ王国の王族かも知れぬ」
「分かった。関わったら、首が飛ぶな。近寄るのは止めておこう」
(バッチリ聞こえてるんですが……)
「で、だ。それもあって、金が暴騰したわけだ。有事の金とは、よく言ったものだ」
「そもそも、我々人間が勝てる存在なのか? 魔人は」
「いや、無理であろう。だから、八英雄の伝説などがあるのだ」
(ですよねー)
私は耳を澄ませ、カウンターで話しを黙って聞く。
「もし魔王軍にヴァーラス王国が負けたら、今度は帝国だ」
「それ以前にヴァーラスの様な大国が負ければ、街道に魔物の蔓延る世界となるわ」
「そんな事態になったら、今度は食糧問題に発展するぞ」
「農村をどう守るかが問題だな。柵などは作るとして」
「自警団か? 冒険者か?」
「冒険者など、全く当てにならん。ただのゴロツキだろ。ギルドなど殆ど機能していないと聞く」
「やはり英雄の登場を待つしか無いのか……」
(なんか、話しの雲行きが怪しくなってきたな……。そろそろ、おいとまするか。ある程度の情報は得たし)
「ごちそうさま」
私はその後、部屋へと戻った。
イリーナは相変わらず寝ていた。
ふと書き置きを見ると、イリーナの字でこう書いてあった。
「独りで出かけてズルいです!」
「はい。すみませんでした」
Fパートへ つづく




