<9話> 「最後のドルイダス」 =Dパート=
「そう言えば、お姉ちゃん達は何でこの町に来たの?」
「ああ、それはイリーナの知り合いの聖母教の聖職者のエルフ族の……」
「えっ?」
「酔っ払いました? お姉様『の』が多過ぎますよ」
「ごめんごめん。イリーナと面識のあるエルフを捜す旅をしているの。できれば聖母教と関係がある者の方が良いわね」
「そっか。この街は確かに聖導教が弱いからね。帝国教、三共教、自然崇拝のガリア教ならば知っているけれど、聖母教は聞かないなぁ」
「残念、また外れですわね」
「さっき見学した要塞の近くに、聖母教の神殿があったらしいけれど100年近く前じゃないかなぁ」
「そっか。やっぱり聖母教の手掛かりは無しか」
「あ、でも完全に空振りでもないかもよ? お姉ちゃん、八英雄ってもちろん知っているよね」
「少しだけならば」
「さっき話した自然崇拝のガリア教、祭司はドルイドやドルイダスって言うのだけれど、八英雄の一人に『最後のドルイダス』と言われた方がいたのね」
「うんうん」
「その八英雄のドルイダスに、弟子の祭司が何人かいるんだ。
その内の一人なら連絡が取れると思うよ。祭司様は占いが得意なんだ。
占って貰えば、手掛かりが掴めるかもよ!」
「おお! でもさ、最後のドルイダスなのに弟子がいたら最後じゃないんじゃ?」
「そうそう。なんでも、八英雄になっちゃったから弟子希望の人達が、わんさか来たんだって」
「なるほどねぇ」
「じゃあ明日、馬車で行けるように手配しておくね」
「どれくらい掛かるの?」
「馬車で片道数時間ってところかな。
とりあえず、お父様に一筆書いて貰って、それを先に祭司様の所に届けさせるよ」
「なんか商会にそこまでして貰って、申し訳ないわね」
「何言ってんの、僕に任せてよ!」
「ありがとうステフ」
「ありがとうございます」
ステフは嬉しそうに笑った。
そうこうしていると、揚げたてのフィッシュ&チップスがやって来た。
「デカ!」
「大きいですわね」
「4人で分けて丁度良い位の大きさだね」
更に店長さんからのオマケで、イカリングの竜田揚げとシュリンプのフライまできた。
レモン風味のサワーソースを付けて食べた。
この世界へ来てからの食事で一番美味しかった。
(ユフィーちゃんの料理も美味しかったけれど、エルフの食事にはジャンキーな物は殆ど無いからねぇ)
「帝国恐るべし」
「あ、お姉ちゃん。ちなみに帝国本土の料理は不味くて有名だから期待しない様にね」
「え。マジか」
(そうか、ここも商会関連だから美味しいのかもしれない。お店選びは重要だわ)
「ごちそうさまでした」
代金はフリックが全部出してくれていた。
(太っ腹なゴブリンだねぇ)
その後、宿へ案内してもらい、シエスタ。
つまるところ昼寝だ。
数日とはいえ、船に揺られていたから平衡感覚がおかしい。
ベッドの上で横になって、私は改めて実感した。
世界が、どんぶらこどんぶらこと、揺れているのだ。
これは決して「アワアワ」を飲んだからではない。
宿は格式の高い高級ホテルだった。
寝室にはクィーンサイズのベッドが二つ設置されており、贅沢な作りだ。
「はぁ、この世界でこんなに立派な所に泊まるの、初めてだわ」
「そう言えば、そうでしたよね」
イリーナが私のベッドに腰掛け、答えた。
そしておもむろに靴を脱ぎ、両足を私のベッドの上に乗せた。
(綺麗な細い足だねー。正直羨ましいわ)
「ん?」
イリーナは掛け布団を捲り、私のベッドの中に入った。
「え?」
「?」
「イリーナさん? 私のベッドなのですが……」
「うふふ」
「うふふ、って……」
私は転移魔法で、直ぐ隣のベッドに転移した。
(能力の無駄遣い?)
「あん、もう! お姉様……」
悔しがるイリーナ。ベッドから上半身を起こし、ほっぺたを膨らませ抗議している。
「ふーーんだ」
(あれ、私が悪いみたいになってない……)
「とりあえず、寝るよ?」
「お姉さまの、意地悪……」
「はいはい、おやすみ」
私が目を覚ますと、左手の先に生暖かさを感じた。
右手で掛け布団を捲った。
予想通りだが、イリーナが私のベッドの中にいたのだ。
私の左腕はロックされており、抜け出せそうにない。
イリーナのマシュマロの様な胸の感触が、私の二の腕に伝わる。
(まだ、子どもなんだよね……。愛情に飢えているのかもしれない)
私は掛け布団を戻し、もう一眠りする事とした。
イリーナは顔まで布団に埋もれ、幸せそうに寝ていた。
Eパートへ つづく




