<9話> 「最後のドルイダス」 =Bパート=
ステフに案内されて玄関から入ると、なんと目の前に、
オシャレな格好のシルクハットを被ったゴブリンが居たのだ。
(え? ゴブリン?)
私はゴブリンが全く殺気を放っていなかった為、不意をつかれて驚いた。
そしてそのゴブリンの手には、算盤が握られていたのだ。
これにはもっと驚いた。
「オオ、コレハ、ボッチャマ。キャクジン、デスギャ」
「うん、そうだよ。お父様は上かな?」
「エエ。ウエデスギャ。フリック、ト、イッショ、ニ、イルデスギャ」
「ありがと」
「レイニハ、オヨビマセン」
「おじゃまします」
私はステフの後に続いて階段を昇る。
イリーナはゴブリンにお辞儀をし、階段を昇る。
私は小声で聞いた。
「イリーナ、あれは?」
イリーナも同じく小声で答えた。
「おそらく、ホブ・ゴブリンでしょうか」
「びっくりしたね」
「ええ、私もあの様なゴブリンを見るのは初めてです」
ステフは階段から直ぐの部屋の戸を叩いた。
「お父様、失礼します」
「開いている。どうぞ」
ステフは戸を開け、私たちも共に部屋に入る。
「失礼します」「失礼いたします」
入ると正面にステフのお父様が居た。
そして、またしてもホブ・ゴブリンが居た。
しかもそのゴブリンはソファーに腰掛け、手に持った六玉算盤を弾いていたのだ。
後で聞いた話だが、この世界では10進法と12進法の両方が何故か普及しており九九も12の段まで有るのだとか。
「お父様、こちらはエルフの国よりの客人、リル様とイリーナ様です」
ステフのお父様は椅子から立ち上がり言った。
「これは、お初にお目に掛かります。私はステファノの父のウィリアムと申します。
我がアレクサンダー商会へようこそ」
(あれ? 「我が」って言ったよね)
「こちらこそ、宜しくお願いいたします」
「オイラは、フリック、ゴブリンだぎゃ。ヨロシク」
「フリックさん、宜しくね」
「お父様、お二人にこの街の案内をしたいのですが、宜しいでしょうか?」
「ステファノ」
「はい」
「無礼のないよう、丁重にな。外で何か問題があったら、私の名前を出しなさい」
「かしこまりました。ありがとうございます。お父様」
私はフリックの方をちらりと見たら、目が合った。
フリックは私の方をじっと見ている。
(かわいい。母の実家の愛犬を思い出す……)
小声でイリーナが私の耳元で呟く。
「お姉様、お姉様、あれは、一緒に着たがってますよね? きっと」
私はイリーナに頷いた。
イリーナは半歩前に出て、聞いてみた。
「もし、良ろしければフリックさんもご一緒いたします?」
「エ、イイのか?」
フリックは首を左右に振り、辺りの顔色をうかがう。
「フリック、一緒に行こうよ。お父様も宜しいですよね?」
「ああ、構わんよ」
というわけで、私たちはGM・聖女・少年・小鬼という、奇妙なパーティーで街の見学へと向かったのであった。
Cパートへ つづく




