<8話> 「魔神」 =Gパート=
「キュリアよ。行くのか?」
「はい」
キュリアは、師であるブラギに片膝を付き敬礼し、答えた。
二人は王都フリードが一望出来る丘の上に居た。
「それでは旅の間、愛馬グラァニーを宜しくお願い致します」
「ああ。キュリアよ、馬が必要になったら知らせよ。逆召喚で送り込んでやるわ」
「はッ。ありがとうございます。その様な事態とならない為に、善処します」
「真面目じゃのう。ワシは楽しみにしておるぞ」
「師よ……」
「キュリアよ。餞別だ。くれてやる」
ブラギは人差し指にしていた七色に光る指輪二つを外し、キュリアへと放った。
「ファスキリング。しかし宜しいのですか? この様な貴重な物を頂いて」
それは魔術の詠唱を短縮する事が出来る指輪であった。
「貴重? 安心せい。まだいくつも持っとるぞい」
そう言うとブラギは、何もないはずの空間から七色に輝く指輪を二つ取り出し、自身の指に填めた。
「ありがとうございます。なんか一瞬にして、有り難みが薄れましたが……」
「これで元来の詠唱時間短縮に加え、指輪の効果が上乗せされる。スキル『即効魔術』を温存しやすくなるじゃろ」
「はい。これで通常の者の五倍の速度で二種類の魔術を使えます」
「うむ。つまり普通は一発しか撃てぬ時間で、十発ぶち込めるのじゃな? 化け物め……」
「そんな事をしたら、直ぐに魔力が枯渇してしまいます。師とは違うのですから」
「おいおい、片目はやらないぜ?」
「いりませんよ?」
「……」
「……」
「そうだのう、キュリア。ワシとは違う魔力の枯渇対策が何か必要そうじゃのう」
「そうですね。思慮し幾つか実行してみたいと思います。この後一度、私は王都へ戻り身支度を済ませ、明日出立いたします。ご助言ありがとうございました」
キュリアは立ち上がり、いつもの愛馬ではない、普通の馬に跨る。
「師よ、それでは行って参ります」
「ああ。キュリアよ」
キュリアの長い金髪が風に揺れ靡く。
青い鎧姿の戦乙女は、師の元を後にした。
ブラギはキュリアが遠のく様をただじっと見つめている。
自身の娘を見送るかの様に。
「お姉様、こちらです」
イリーナは私の腕を引っ張る。
途中から磯の香りがしていたが、階段を下りて行くと、ますます強くなってきた。
「何これ、凄い!」
私は眼下に広がる光景に魅了された。
洞窟の中なのに港があるのだ。
そこには大小合わせ、帆船が五隻も停泊していたのだ。
しかも船渠(=ドック)構造を有していた。
またそれらの構造物は、四角い巨大な塔となっており、帆船への積荷を容易にする為の工夫が施されている。
(うわ~。開発陣に見せてあげたいなー)
「姉様、こっち」
ソフィアは、船上に居た。
前面には三枚の菱形の帆を有し、二本の帆柱には拉げた台形の帆を有している、
帆も船体も純白の帆船だ。
イリーナに引っ張られ、ソフィアの居る船へと乗り込んだ。
「姉様、実はこの船、まだ試作段階」
「え……。沈まない?」
「沈まない」
「そっ。そうなの」
「試作というのは、船自体ではなく、魔術回路が」
「え?」
「この帆船は、巨大な精霊石の力で、常時帆に風を受ける事が出来る」
「何その永久機関……」
「でもまだ試作段階。当分は魔力の外部補充が必要」
「なる程ね」
「帝国西部へは丸3日もあれば着くから、実質4~5日の船旅。その程度なら問題ない」
「では、姉さん、出航しますよ!」
「あっ、はい。ってスパさん?」
(一瞬、ピーターパンに見えたわ)
いつの間にか、港には見送りが居た。
ソフィアのお母さんのユフィーちゃんに、エルフ四人組。
エンキ老師まで居るのには驚いた。
かくして私たちは、魔術と科学の融合である魔動帆船へと乗り込み、
帝国西部の都市エアルへと向かうのであった。
9話へ つづく
8話をお読みいただき、ありがとうございます。
第二章は時間軸をいじらず、キュリアの物語とソフィアの物語を行ったり来たり
という演出を試みました。一人称と三人称の視点が同じ話数の中で、
途中で切り替わり読み辛かった旨、お詫び申し上げます。
楽しんでもらえるよう、話しの途中で切り替わるサプライズ感の方を
優先させていただきました。
連載開始の昨年11月10日より約2ヵ月が経過いたしました。
まだ二月しか連載していないのにもかかわらず、私はその何倍もの時間経過を感じています。
第二章が終わり、短編を含め約10万字。つまり単行本1冊近くを書き終えました。
多くのファンに支えられ、2ヵ月間走り続けてきました。
一時体調を崩しはしましたが、これを達成できた事を私は誇りに思います。
そしてそれを達成できたのも、皆様に読んで支えていただけたからに他なりません。
9話からは第三章が始まります。まだ物語は、主要キャラの集合すらしていません。
おそらく私自身が一番、早くキュリアをリルたちに会わせたいです。
ですが、その前にリルたちは貿易都市エアルにて、思わぬ事件に巻き込まれてしまいます。
剣でも魔法でも異能でもない、ジャンル違いの9話ですが
皆様に楽しんでいただけるように、構想を練っています。お楽しみに!
<お知らせ>
今週来週の毎日連載は休止いたします。毎日連載再開は今月末を予定。
来週は短編を前後編で掲載し、その後は章末用のにキャラ紹介を作成したり、
Twitter用キャライラストを作ったりと、やり溢した事をする予定です。




