<8話> 「魔神」 =Eパート=
そして、娘の横に落ちているリボンを魔力によって浮かせて、こちらへと放った。
それをイリーナの身体で受け取る邪神。
(なんだかんだ言って、仲が良いよね)
どうやらゲーム内と同じく、状態異常耐性てんこ盛りのリボンの様だ。
エンキが呟く。
「だが、困った。元の世界へ返る術がない。まして、この神殿ごと転移させるとなると、かなりの手間が予想される」
洞窟エルフの王が口を開けた。
「お恐れながら、エンキ様」
「そなたはエルフの王か。遥か昔に会った事があるな」
「覚えておいでとは。光栄に存じます」
「何か案があるのであろう? 申してみよ」
「恐れながら、エンキ様が帰還されるまでの間、我々エルフの街に御滞在いただきたい所存です」
「利害の一致か。予の庇護下にあれば、魔王とて、手を出せない。そういう事か?」
「仰せの通り」
「して、飯は美味いのであろうな? 洞窟での生活だとそこが心配よ」
「安心せい。ここのエルフの文明は高い」
そう言うと邪神は、多次元収納からサンドイッチを取り出し、魔力によって浮かせ、エンキの元へと放った。
(あっ、いつの間に収納に。まさかイリーナに内緒で隠し持って、食べていないよね?)
エンキは新鮮な葉物野菜の入ったサンドイッチを口にした。
「決まりだな」
周りから歓声が沸き上がった。
(まさか、交渉の決め手がユフィーちゃんの料理とはね……)
祝勝会はてっきり今晩お城でやるのかと思っていたのだけれど、国の行事として正式に行う事になるので後日だそうだ。
という訳で、皆でユフィーちゃんの家に集まっている。
王に魔神に邪神におかしな森エルフ、もうひっちゃかめっちゃかだ。
近衛隊長は胃が痛いと言って、周辺の警備を部下に任せて出て行ってしまっていた。
「そういえばユフィアよ、いつの間にダイニングを改築したのじゃ? おかげで広くて皆が入れたのう」
(あ、王様、その話題は……)
「あ、いてててて」
スパスは急に頭を抱えて痛がる。
「おや? 怪我は癒やしましたのに、何故でしょう?」
イリーナは不思議がる。
ソフィアは笑いを抑え、声を出さない様に必死だ。
(あー、これはイリーナに麒麟の髭で殴られた後遺症? 本人は憶えていないみたいだけれど、傷は癒えても脳は憶えていたんだね。「心の傷は、癒せない」っとメモメモ)
ソフィアは王様となにやら能力を使って会話をしている様だ。
ソフィアがこんなにも普通に優しい顔をしている所を私は見た事がなかった。
(これが本当のソフィアなのかもしれないな)
王様がこちらを向いた。
「そう言えば、リル様。報酬の件は憶えておいでですか?」
(様って……)
「えっと、そう言えば、そんな話しもありましたっけ」
「姉様ひどい……。それを糧に頑張ってキャサリンの攻撃にも耐えたのに。忘れるなんて」
「完全に忘れていたわ。たしかあの時は報酬の件はお断りしたつもりだったし」
「あら、お姉様。両手に花で良いではありませんか。左右両方の手に剣など持っていては行き遅れてしまいますよ」
「両手に剣ねぇ……」
スパスがさりげなく混ざってきた。
「そういえば、八英雄にもいたっすね。両手に剣を持った二刀流のお姫様が。自分憶えていますよ。兄から直接聞いていますから」
「そういえばスパスの兄も八英雄だったわね」
「はい。そうっすよ。名前は何だったっけ? ケリア? クリア? フェリア?」
答えの出てこないスパスに代わり、ソフィアが応えた。
「スパス。キュリアでしょ」
「あー、それそれ」
「その話しは置いといて」
(あー、私、聞きたかったのに八英雄のお話し)
Eパートへ つづく




