<8話> 「魔神」 =Cパート=
硬直の解けた私は、自分の直感を信じ行動した。
私はキャサリンの背面の空中へ転移した。
その時、私の頭の中に、ある記号が浮かんだ。
「∇」
私は黄昏の剣の切っ先で、「∇」をなぞる。
私の転移魔法では、運動エネルギーはそのまま保持される。
転移前に行った行為の運動エネルギーが、転移後にも反映されるのだ。
例えば、落下途中に転移しても、落下速度は保持され、地面に激突する。
恥ずかしい思い出だが……、それを利用するのだ。
私はキャサリンの背面にアルマスを放つ。
Ζの軌道を持つ三連撃だ。
放つと同時に私は転移魔法を連続して使用した。
転移は三カ所、「∇」の三辺だ。そこを三連撃を放ち終えるまでに数十回、連続で転移し続けた。
その様子はまるで、私が三人に分身し各々が三連撃を放っているかの様であった。
そしてその結果、キャサリンの背面に∇形の風穴が空いた。
まるで背面に新たな口が出来たかの様だ。
キャサリンはもがき苦しみ、やがて力尽きていく。
支えていた触手が解き放たれ、胴体部は地面に崩れ落ちた。
(はぁ、終わったぁ?)
「オオオオオ!!」「おおおおおお!!」
辺りから、勝ち鬨があがる。
どうやら、なんとか削り切れた様だ。
イリーナが私に近寄って来る。
「やりましたね! お姉様」
「ええ、イリーナ。お疲れさま。さっきの雷撃衝、凄かったわよ」
イリーナは両腕を伸ばし、グレーヴ抱きしめ、少し下を向いて照れて答える。
「あ、あれはですね……、身体が動いてというか、邪神様が力を貸して下さったというか。でも、でも、自分の意志で撃ったのですよ」
私は剣を地面に刺し、左手をイリーナの右腕に、右手をイリーナの頬に当て、感謝の言葉を述べようとした。
「おおっ、お姉様に、そんな事されたら、私、私……」
イリーナは耳を真っ赤にし、私の腕の中で昇天して意識を失ってしまった。
「ちょっ! イリーナ? イリーナあぁぁぁ!」
ソフィアは開放感からか、その場で大の字で横たわっていた。
ユフィーちゃんは、アゴに人差し指を当て、何か考えている様だ。
「そうだわ、お鍋にしましょう!」
どうやら、夕飯の心配の様だった。
(まッ。まあ分かるよ……、祝勝会の準備も必要だものね)
スパスは仲間と、変な踊り合戦をしていた。
私はイリーナを抱き上げ、キャサリンの方をもう一度見た。
時間が経ち、キャサリンに死亡エフェクトが発動する。
だがそのエフェクトは、いつもと違っていた。
「上位名持ちだからかな?」
エフェクトが消えると、そこには少女が横たわっていた。
更にその傍らには綺麗なリボンが落ちていた。
Dパートへ つづく




