<7話> 「Lovely キャサリン」 =Cパート=
そして3日後……。
ソフィアは魔宝石の付いたティアラを額に当て、左腕に腕輪を付けグローブをし、右手には篭手をしていた。
私は、この世界へ来て初めて戦闘の為にGMの鎧を装備した。
イリーナには、アテーナーのローブの上に風の鎧を装備させて、聖者の外套を装備から外した。
風の鎧をイリーナに装備させておけば、万が一事故った場合にも、回復役の安全度が上がる。
風の加護が自動で付く為、地味だが長期戦では特に役立つ。
加護による風分身は5分毎に1つ10分で最大2発まで耐えられるのだが、15分以上経過していると、1つ目の分身が攻撃を受けて消えた瞬間に直ぐに発動する。
つまり15分で実質3撃迄風分身が護ってくれるのだ。
ただし分身が防ぐ確率は判定ボーナスがあるものの、風分身が2つの時は75%で、1つの時は67%だ。
ボス戦では、保険は多い方が良い。
一瞬の判断ミスや想定外の事態が複数重なると、雪崩的に直ぐに全滅する。
ゲームとは違い、全滅したらお終いなのだ。
ただし、ただしだ……。
ゲーム内においても、私は何度も負けられない戦い、プレッシャーの掛かった戦いは何度か経験している。
例えば10年以上前になるが、eスポーツとして認定されているVR対戦の全国剣術格闘大会、そのジュニア部門の決勝大会だ。
実際の古武道を習っている兄の協力があったからこそ優勝できたのだが、今思えばゲーム、いやスポーツの域をも越えていた。あれは。
(この世界で剣士として振る舞えているのは、兄のお陰であろう)
(いや、まてまて。
兄が誘わなければ、そもそもGMやってないし。
この世界に来る事もなかったんじゃ!?)
「お姉様? どうでしょうか? 似合っていますか?」
「ええ。格好いいわよイリーナ」
イリーナは、私の着けていた鎧を装備出来たのが、余程嬉しいのか、満面の笑みだった。
(今、私はこの世界の住人。この子たちの、この笑顔を護ってあげなければ……)
(あぁ、お姉様……。私イリーナは、お姉様の香りに包まれて、最高に幸せです)
「イリーナ、そう言えば薙刀をまだ返していなかったわね」
私はグレーヴを収納より取り出し渡した。
イリーナは受け取ると、多次元収納へとしまった。
「友よ。良いのか? 我は協力せずとも」
この世界において私の事を友と呼ぶのは、他でもないイリーナに憑依している邪神だ。
イリーナの額に紫の光でできた瞳の様な紋様が浮かび上がった。
「それにしても、昨日の戦闘は見ていて楽しかったぞ」
「お戯れを……」
「なんじゃ、褒めたのじゃぞ。ククっ」
「そう言えば、昨日もイリーナが病んでいる発言をしたのだけれど、心当たりは?」
「うむ。まあ、我が原因で毒気にやられていると言ってしまえばそれまでじゃが、どうやらそれだけではないのう」
「状態異常の混沌が未だにあります」
「うむ。おそらく、この娘の“心の弱さ”それが根底にあるのかもしれん」
「精神的なものですか……」
「無理もなかろう。本人は絶対に口にせぬと思うが……。この娘は15の身にして、我という異教の神を胎内に封じ込めておるのじゃ。世界を救う為とな。世界をこの細い身体に背負わせた人類。そして魔王に捕らわれの身となったにも関わらず、誰も助けてくれず、孤独に生きる娘。さすがの我も長年共に過ごし、情が移るわ」
「イリーナは少なくとも、あなたを恨んでなんかいませんよ。そうですねぇ。イリーナならきっとこう言いますよ。『おかげで百年以上生き、お姉様と巡り逢う事が出来ました。感謝こそすれ、恨むなどという事はありませんよ』ってね。そういう子です」
「ふむ。我も御主と出逢え、良かったと思っておる。本当に良き友よのう」
「その台詞、今度イリーナにも直接言ってあげて下さいね」
「恥ずかしい奴じゃ……」
そう言うと邪神は再び眠りについた。
「何を話していらしたのですか? お姉様」
「いつも通り情報交換と、たわいない話し。倒すのに手伝いが必要かも聞かれたよ」
「そうなのですね」
イリーナは、私から目を逸らし、少し嬉しそうにしている。
(まったく、二人とも根は素直で優しいのに……)
そして私たちは準備を終え、討伐隊より一足早く神殿遺跡へと向かった。
Dパートへ つづく




