<6話> 「不敗の魔剣師」 =Iパート=
「困った。どうしよう……」
お互い膠着状態が続く。
5分近く睨み合ったままだ。
プラント系名持ち(ネイムド)なのに、まさか警戒して動きを止めるとは……。
(強制転移からの空中逆落としを仕掛けたのがマズかったか? 技名はひとまず「鵙の速贄」とでも付けておくか)
見つめ合う私とキャサリン。
シュールだ。自分でもそう思う。
(それにしても、このまま見逃してくれないかなぁ? 無理かなぁ? 無理だよねぇ。あんなに警戒しているものね……。そろそろ補助魔術の効果時間を気にしないといけない頃合いだ)
私は転移魔法を使う。
転移先は、転移装置上部。
転移装置上で、イリーナの置いていってくれたグレーヴを受け取る。
左手に逆手で剣を持ったまま、右手でグレーヴを構える。
そして装置の起動を待つ。
(くっ。やはりタゲられていると発動させられないか。予想通りとはいえ、こんな所までゲーム内と同じとは……)
キャサリンの触手が私を襲う。
十本以上の触手が……だ。
私は魔法で転移する。
今度は天井だ。
私は逆さまになり、グレーヴを天井に突き刺し、天井に立った。
赤い髪がバサリと重力に持って行かれる。
(うぅ、頭に血が昇る……、正確には逆さまだから、頭に血が降るか? まあ、そんな事は今はどうでも良い。一つ目の作戦は、予想通り失敗だった。次の作戦に移るとしよう。5分もの考える時間を与えてくれた事に感謝するわ)
次の作戦は、転移魔法で洞窟の外へ逃げるだ。
私は転移魔法を使う。
転移先は、先ほど上位スケルトンと戦った辺りだ。
街や洞窟の外へ転移しないのには訳がある。
それは名持ち(ネイムド)が、私を追い掛けて街や外までやって来る可能性を持っていたからだ。
ゲーム内でも稀にやらかすプレイヤーがいて、GMコールで呼ばれて対応した事が何度もある。
誰もが「こんな所に引っ張って来たクソは誰だよ!」ってなる。
まさにMMORPGあるあるだ。
それを警戒して、近場で引き寄せ範囲外まで転移した。
私は通路から奥の様子を確認する。
遠くの方から、轟音が響いてくる。
「あかん。これタゲ切れとらんで」
更に次の作戦だ。
私は左手で持っていた剣を納刀し、グレーヴを両手で構えた。
(薙刀は、剣ほど得意ではないのだが)
私はキャサリンの引き寄せが来る前に、自ら範囲内へ入った。
通路からは触手しか見えていなかった。
「雷撃衝」
槍の広範囲攻撃だ。しかもスタンよりも長く敵を硬直させるテラーのおまけ付きだ。
キャサリンは動かなくなった。
しかもこちらも技を使用後の硬直で動けない。
これは実験だった。
テラーで保険を掛けてはある。
果たして、技硬直中にGMスキルが発動できるかだ。
答えは「可能」だった。
私はGMスキルにより跳躍した。
「直ぐに戻ってくるさ」
私はキャサリンの居た、神殿遺跡の遥か上空8000メートルの高さに居た。
技の硬直は数秒解けず、槍を構えたままの格好で落ちた。
(あぁ、これ1月前と同じだ……)
ヒューーーーーーーーーー
私には確証があった。
転移魔法はターゲートを切る事は出来ないであろうが、スキルによる跳躍は別であると。後者は、エリアチェンジ、ワールドチェンジ、更にはサーバーを飛び越える事が出来るのだ。
同じ様に見えて、全くの別物なのだ。
だから私は、この世界が初めはテストサーバー内なのではと思ったのだ。
「さて、どうしよう。ヴリトラの呪いは未だに解けていない様だ。どうやって着地しよう……」
遥か彼方の地上付近から、イリーナの気配を感じた。
「イリーナ?」
イリーナの背中に白い天使の羽が生えていた。
私がイリーナと旅をし始めた頃に、万が一の時に使う様に渡したアイテム≪ダイダロス・ウィング≫だ。
効果は一定時間、翼が生えて低空を飛行出来るようになるのだ。
「お姉様!」
イリーナが私を空中で受け止め、お姫様抱っこする。
(翼の生えたイリーナ、どうみても天使だ)
「お姉様を傷付けるキャサリン、死霊、そして人類、全て滅んでしまえば良いのに」
イリーナの翼が、黒い翼へと変わっていく。
驚いた私はスキルでイリーナを確認した。
(良かった。堕天状態ではなくて。光の影響でそう見えるだけだ。きっとそうだ……)
「ふう」
地上に降り立った頃には、陽が暮れ掛けていた。
7話へ つづく
皆さま、あけましておめでとうございます。
そして6話をお読みいただき、ありがとうございます。
総合評価が100ptを超え、幸先の良い年明けとなりました。
皆さまのご期待に応えられる様、リルと共に頑張りたいと思います。
皆さまにとっても良い一年でありますように。
2019年 すめらぎ




