<6話> 「不敗の魔剣師」 =Hパート=
「さっきは不覚を取ったが、準備さえできれば負けない。私は魔剣師だから!」
キャサリンの触手が二本、ソフィアを襲う。
ソフィアは剣で軌道を変え、二本とも受け流した。
私はその隙に、キャサリンの背後へと回る。
巨体な為、回り込むのに時間が掛かる。
ソフィアは中段に構え、次の触手に備える。
イリーナは、ソフィアに攻撃した触手に対してグレーヴを突き付ける。
「はぁッ!」
ソフィアの四連突きが炸裂する。
キャサリンは慌てて触手を引っ込めた。
「骨と違って斬った感触があるというのは、やりやすくて、助かります」
(イリーナ、ナイスだ。おかげで回り込めた)
「フラットブレード」
私はキャサリンに状態異常スタンをプレゼントした。
数秒だが、相手の動きを止められる技だ。
「さあ、今のうちに!」
エルフ四人は、転移装置に微弱な魔力を流し、発動させた。
魔術陣の赤紫色の光が四人を包み込む。
「システム ヲ キドウ シマス」
装置から声が聞こえ、四人の姿が消えた。
「良し! いける! 読み通りだ」
イリーナとソフィアは私の声に頷く。
私からは位置的に見えていなかったが、何となくそう感じた。
(やっぱりチームプレイは楽しいなー。っといけない不謹慎だ、私)
戦闘の高揚感に呑まれた私は、自分を叱咤した。
(もうここはゲームの世界ではないのだから。あの時の惨劇を繰り返させない)
止まっていたらやられる。
私は背面から側面へと移動した。
「次、イリーナ!」
「はい! お姉様ご無事で……」
転移装置の上に乗ったイリーナは、私に補助魔術を掛け直してくれた。
そして、グレーヴを装置の下の地面に突き刺し、転移した。
「ありがとう。イリーナ」
(もう声は届かないが、お互いに気持ちは届いている)
私は側面の触手を斬り付ける。
キャサリンの敵意をこちらへ向ける為だ。
「ソフィア、あなたも行きなさい」
(イリーナには分かっていたのであろう。私が最後まで残ると……)
「しかし姉様を置いては、行けません!」
「ソフィア、気持ちは受け取るわ。ただ、同時に出ようとしてあなたが万が一にも最後に残ってしまった場合、あなたには脱出手段が無いでしょう?」
「しかし……」
耐性と抵抗性を強化した今のソフィアなら確かに、独りでも耐えられるかもしれない。
だがそれも、何時間もとなれば別だ。
一つの瞬間的な判断ミスから、一瞬で死に至る。
そういう敵なのだ、上位の名持ち(ネイムド)とは。
だからこそ、倒した者は賞賛され、崇められ、時にはネットで晒される。
(懐かしい……あのヴリトラと闘っていた兄妹は、今頃どうしているのだろうか? あれ、これって走馬燈?)
「さあソフィア、行きなさい」
三本の触手が私を襲う。
一本目は避け、二本目は剣で受け流し、三本目は迎撃する。
斬り付けるも、丸太の様に太い触手には、少し傷が付く程度にしかダメージを与えられなかった。
ソフィアは転移装置へと駆け寄る。
キャサリンはソフィアを逃がすまいと、十本の触手で襲う。
必死に避け、剣で受け流したソフィアを更に触手が襲う。
触手がソフィアのルーンの刻まれた服の魔力防御を貫通し、ソフィアを蝕む。
皮膚が引き裂け、血が滲み出る。
更に別の触手がお腹の部分を蝕む。
「ぐぅ」
痛みで思わず、声にならない悲鳴を上げる。
触手を剣で凪払うソフィア。
痛みに耐え、装置の前まで懸命に走る。
そして触手の追撃を避け、なんとか辿り着いた。
ダメージを追っていたはずのソフィアは、既に傷口が塞がって、綺麗な白い皮膚へと戻っていた。
魔剣師の魔術による上位自動回復だ。
ソフィアは装置を起動させ様とするが触手に邪魔されて、転移できずにいた。
「こんにゃろーー!」
私はソフィアを転移させる為、危険を侵してキャサリンの触手を両手で抱え込んで掴んだ。
キャサリンの巨体が10メートル程移動する。
GMスキルにより強制転移させたのだ。
「あぁ、やはり姉様は凄い……」
そう言い残し、ソフィアは装置で転移し、消えて行った。
Iパートへ つづく




