<1話> 「GMのお仕事」 =Bパート=
――ヴリトラ・アスラ――
このゲームの世界において、最強の一角を成すドラゴン。
その名前はインド神話に由来し、神と闘いうる存在。
その強さは別格。
実装から3年が過ぎた現在に至るまで、討伐されたのは只一度のみ。
それ程までに凄まじい強さなのだ。
当時、どのようにして討伐を成し得たのかといえば、詳細は次の通りだ。
*************************************
まず複数のトップギルドがタッグを組み、討伐の為に非公式イベントを開催した。
そのイベントには、延べ300名を超えるプレイヤーが参加する事となる。
司令統率、伝令に8名。
プレイヤーの蘇生係が18名。
倒しても自然と直ぐに湧いてくる周囲の小ボス級モンスター十数匹を、イベント呼びかけに応じた野良参加のパーティーが処理。
野良参加は長時間に及ぶ為、処理に加わった延べ人数は200名を越えた。
ヴリトラの側近モンスター2体を、36名のトップギルドメンバーが迎え撃つ。
最後はヴリトラと闘う36名。トップギルドの精鋭18名が二組。
二組は交代をしながら8時間を掛けてヴリトラを倒した。
*************************************
その際に、直接ヴリトラと最後まで戦闘をしていた18名のプレイヤーへは、称号†インドラの神兵†が与えられた。
今でもその18名は、多くのプレイヤーから称えられ、憧れの眼差しを向けられる程の存在なのだ。
あれから1年半。
ヴリトラ・アスラの前に60名を超えるトッププレイヤー達が集結していた。
だが、アクシデントが起きてしまう。
昨日のアップデートメンテナンス以降、側近モンスターの挙動がおかしいのだ。
そこでGMをコールにて呼び出し、確認してもらう事にしよう――となった。
コールしたのは、魔法遊撃パーティーのリーダーをしている黒衣の魔導師。
そして今、管理者GMである〝私〞が彼ノ者たちの目前へと現れたのだ。
プチっ
「あ」
周囲に居た30名程が心で、あるいは声に出して呟いた。
そして皆、こう思ったであろう。
「ああ、GMもやっぱり死ぬんだね」って。
「ちょッ! ヴリトラですか。反則です!」
――と、私は叫びたかった。けれど仕事なので、それは言わない事にした。
GMには幸い、自動で無限に死者甦生完全復活のできる指輪が与えられている。
そして、それを私は装備しているのだ。
指輪の効果が発動する。
私の身体は浮かび上がり、今、復活を遂げる。
ブおぉぉぉぉぉォォ
「ん?」
ヴリトラの範囲ブレス攻撃を、全て私の背中が受け止めていた。
「あぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」
戦闘に参加していた60名、全ての声がこだます。
(こっ、これは恥ずい。プレイヤーたちに、絶対ドジっ子GM認定される……)
そう。GMの私はまたしても、天に召されたのだ。ちーーん。
でも私はめげなかった。
直ぐ、死んだ状態のままスキルで跳躍する。飛んだ先は自室。
自分のデスクがある部屋へ死んだままで戻ったら、同僚や運営開発陣にこの珍事がバレてしまう。それは超恥かしい。
特に開発陣なんかにバレたら、一生言われそうだ。実に怖い。
そういう訳で、自室へ飛んだのだ。
自室にて指輪の効果を発動させた私は、無事に復活を果たした。
そして今度はコールしてきたプレイヤー、黒衣の魔導師の目前ではなく、やや離れた安全な位置に座標を指定して跳躍した。
(よしよし。今度は死ななかったぞ!)
私はやや離れた位置から、堂々とした足取りでプレイヤーの元へと歩む。
先程の珍事などなかった――そう思わせる素振りで黒衣の魔導師へと言い放った。
「どうなされました?」
Cパートへ つづく
2020.07改訂版
※ このエピソードは、実話を元にしています