<5話> 「主神の息子を名乗りて」 =Cパート=
二人の目の前に突如、炎で出来た矢が何本も飛んできた。
魔将の黒魔術師が唱えた物であった。
「おのれ魔将ごときが、わしにツッコミを入れおって。生意気じゃ」
飛んできていた矢の一本をグングニィルにて吸収して、撃ち返した。
撃ち返した炎の矢は、巨大な盾で防がれた。
魔将の騎士が黒魔術師をかばったのだ。
「キュリアよ。遊ぶぞ」
「本当に、子どもの様に喜びますよね」
二人はあえて騎馬から降りた。
ブラギは槍を両手で持ち、槍の先で黒魔術師を切りつける。
外套を傷つけ、僅かに体にダメージを与えた。
少し浅かった様だ。
そして更に、槍を引く動作に重ね、槍の逆側の先端で、騎士を突く。
これはさすがに盾で防がれ、いなされた。
盾で防いだ騎士は、槍の殺傷域の内側を侵す。
そしてそのまま、ブラギに斬り掛かる。
しかし騎士は突然、動きを止めた。
キュリアだ。それも構えすら取っていない。
騎士の側面を取り、数歩前に出ただけであった。
だがこの数歩こそが、騎士の動きを止めたのだ。
ブラギは黒魔術師と対峙し、キュリアは騎士と対峙した。
騎士は斬り掛かろうとするが、構えてすらいないキュリアの殺気に押され、攻め倦ねている。
キュリアから騎士へと斬り掛かる。
左手の剣で右から左へと水平に斬りつける。
騎士は3メートルもの巨大な盾を構え防いだ。
剣を防いだ時、高い金属音と共に重い重低音が辺りに響く。
キュリアはそこから、連撃を繰り出す。
騎士は打ち込み用の人形と化した。
「おうおう、キュリアめ。遊んでおるのう」
ブラギは黒魔術師を見ている。
黒魔術師は攻め倦ねていた。
グングニィルにより、単発や放出系の魔術は跳ね返されてしまうからだ。
黒魔術師は、騎士がキュリアに打ち込まれているのを見て、覚悟を決めた様だ。
黒魔術師は詠唱を始めた。
後を追うようにブラギも詠唱を始める。
「ファイア・キャニスタ……じゃろうて」
「ファイア・キャニスタ」
二人は同じ魔術を放った。
数十の火弾が出現したが、二つの魔術は互いに相殺されて、消えていったい。
黒魔術師はかなり動揺している。
後から唱えたブラギの方が早く、唱え終わった。
そして何の術か一瞬で解析され、同じ術を放ってきたからだ。
ブラギはグングニィルを左手に持ち、右手を突き出した。
「ええじゃろ、詠唱時間短縮の指輪じゃて」
ブラギの人差し指に七色に光る指輪が二つも付いていた。
「この世界にはのう、様々な神秘の力がある。魔術だけではないのじゃよ。解るじゃろう? 魔将なれば。例えばこのルーン文字もその一つじゃ」
グングニィルを光らせて見せる。
「魔術と言うの、言わば術式じゃ。よって、同じ術ならば、消費する魔力は誰が使おうが変わらんし、術者が違っても威力もそこまで変わらん」
ブラギは自分の長く延びた顎髭を数回さする。
「ここまで講釈を垂れれば、解るじゃろう? わしが何をするか。時代遅れとなったが、かつて栄光を極めた力……」
ブラギの、ずっと瞑られていた片方の眼が現れた。
黒く染まったその眼からは、大量の魔素が溢れ、炎の様に外に立ち込める。
肉眼で見える程に濃い魔素だ。
「魔導の力の一端、魔法じゃぜ」
Dパートへ つづく




