<5話> 「主神の息子を名乗りて」 =Bパート=
二人が居るのは要塞であった。
元々は王家の墓がある場所で、戦争が起きない限り使われる事はない。
普段は無人の場所だ。
ブラギは愛馬のスレィプニールに、キュリアは愛馬のグラァニーに跨がった。
転移陣の周りにこそ、魔人は居なかったが、
1000体近い下位魔人の魔力気配がしている。
そして2体が、上位魔人よりも強い魔力を放っていた。
「あれは、魔将じゃのぉ」
ブラギは、杖を構える。
杖は再び魔力を帯び、赤く光り長細く槍状態となる。
ユグドラシルの枝から作られたグングニィルだ。
「お供いたします」
キュリアは、二本の剣を馬上で抜刀する。
右手には黄金の刀身に、青や白い光を放つ剣を持つ。
左手には赤い刀身に、黒と紫の瘴気を放つ剣を持つ。
馬を走らせると、直ぐに下位魔人の軍団が居た。
ブラギは馬の速度を落とす事無く、グングニィルを構え突き進む。
下位魔人達は何が起きているのかさえ分からずに、次々と10メートル以上吹き飛ばされていく。
さながら、息を吹きかけられて飛んでいく、粉の様だ。
「おぅおぅ、よく飛んで行くわい。これはこれで、なかなか良いのぉー。スカッとするわい」
「それは何よりです。師よ」
それを言うためにキュリアが少し前に出た。
グングニィルで弾けなかった距離の魔人達に、キュリアの左手に持つ剣の瘴気が襲う。
微かに触れただけの魔人が次々と力無く、その場に倒れていく。
その数も10体、20体、30体とバタバタ増えていく。
ブラギが周りの音に負けない様、大きな声で言う。
「そろそろ、じゃぜえ」
キュリアは自身と師に、強化魔法を八重に掛けた。
掛け終わった頃、視界に4メートル級の魔将が入る。2体居た。
重装備の黒い鎧に巨大な盾とサーベルを装備した魔将。
淡い紫の光を放っており、魔力を帯びた武具だ。
騎士であろう。
厳つい外套を纏い、鎌を装備した魔将。
鎌は柄まで一繋ぎでできており、全身が魔力で覆われている。
黒魔術師であろう。
「アレ、やってみるかのう? 魔術頼むぜぇ」
「はい!」
キュリアは、詠唱した。
「トルネド・サイクロン」「プラズマ・ブラスター」
暴風と雷撃が、襲う。
照準は魔将ではなく、ブラギの持つグングニィルだ!
グングニィルに刻まれたルーンが光り、魔術を吸収する。
そしてブラギは2体の魔将に向かい、突き技を繰り出す。
「連携技・風神雷神撃」
閃光と共に放たれたその一撃は、風と雷を纏い射線上の全てを襲い粉砕する。
魔人の集団を貫き、更に先の要塞外壁をも貫通した。
貫通しなおも衰えないその威力は、要塞の外にも爪痕を十分に残した。
「あ、外しちまったのぅ」
一撃は2体の魔将の丁度真ん中を通り抜け、羽を破損させるに留まった。
魔力を中心に凝縮し過ぎた様だ。
「師よ、『あ』ではありませんよ。相変わらず、ですね……。この近距離で外すとは」
「じゃあ、こうかえ?」
ブラギは馬上で振り返って言う。
「てへっ」
「……」
「……」
二人の目の前に突如、炎で出来た矢が何本も飛んできた。
Cパートへ つづく




