<5話> 「主神の息子を名乗りて」 =Aパート=
リルとイリーナは、旅をしていた。
まず、イリーナを知る者を当たる事としたのだ。
だがしかし、60年以上の歳月が経過しており、人族の寿命からすると厳しいものがあった。
最初は、船で2日かけ周辺国へ行った。
聖母教の神殿を訪ねたが、廃れていた。
知り合いどころか、お偉いさんも存在しなかった。
イリーナ曰く、
「あそこは結構、由緒正しき神殿だったのに。時の流れと言うのは残酷ですね」
だ、そうだ。
次は、陸路で駅馬車などを使い、エルフの住む森へと向かった。
エルフならば長寿の為、知り合いがいるかも知れないからだ。
だが、ここも外れだった。
イリーナ曰く、
「あそこは数百年前から、住んでいたのに。エルフもお引っ越しされるのですね」
だ、そうだ。
そして今、洞窟に住んでいるというエルフ族に会う為、私達は北上していた。
北の国へと帰るという行商人夫婦にお金を払い、荷馬車に相乗りさせてもらっている。
馬車はどれも馬四頭立てだ。荷馬車が8台と6人乗りの馬車が1台。結構な大所帯だ。
行商人は、雪の降らない今の内に、北国とを何往復もするのだと言う。
行商人はわざわざ遠回りになるにも関わらず、私達の目的地近くまで連れて行ってくれた。
「荷馬車が一杯でなければ一緒に行きたかった」
と嘆いていたくらいだ。
「いい人に巡り会えて、良かったよ」
お礼に今度この商人がエルフの所へやってきたら、歓迎してくれる様にと、口利きしようと、イリーナと決めた。
ツカツカと、洞窟まで続く岩壁に挟まれた細い道へと入っていく。
「お姉さま、やりました!」
普段あまり喜びの声を上げないイリーナが、無邪気にはしゃぐ。
私には15歳の女の子らしい仕草のイリーナが新鮮だった。
「どうしたの?」
私も釣られて、ついつい嬉しそうな声で答えた。
「当たりですよー。当、た、り! エルフと思しき魔力を感じますわ」
私は岩壁の上の方から気配を感じた。
すると、頭の中で声がした。
「(イリーナ? イリーナなの?)」
(これはテレパシー的な魔法?魔術?)
イリーナは、声に出して答えた。
「そこにいるのは、もしかしてソフィーなの?」
どうやら、二人は知り合いの様だ。
ここ一月、旅をした甲斐があったというものだ。
ようやく、知人に辿り着いた。
ソフィーと呼ばれたエルフが、軽快に岩肌を駆け降りてくる。
見た目は幼子の様だが、恐らく数百年生きているのであろう。
薄紫色の髪で、きちんと整えられたら前髪。
髪から少しだけ尖った耳が出ている。
肌は青白く、身体のラインが出てしまうボディースーツを着ている。
更にその上にジャケットの様な物を纏っていた。
背負った背丈よりも大きな両手剣が何よりも印象的だ。
私達は、ソフィー、正確にはソフィアに出迎えられ、洞窟に住むエルフ達の住みかへと案内されたのだった。
ーー同時刻
ブラギが転移先で嘆いていた。
「おいおい、ここはヴァーラス王国の領内じゃねえかい」
「はぁ、その様ですね」
キュリアがそれに答える。
「せっかく、魔王の元まで案内してくれると思うて、不味い煙りまで吸い込んだってえのによお」
「分かります、師よ。これから八つ当たりですね?」
「おいおいキュリア卿、俺がそんな了見の狭めえ、男に見えるってか?」
「はい。見えますね。で、実際にこれから八つ当たりですよね?」
「キュリア……」
「師よ……」
「……」
「……」
「キュリア、当たりだ。当、た、り、だ……」
二人が居るのは要塞であった。
Bパートへ つづく




