<4話> 「亡国の戦乙女」 =Gパート=
魔人は杖と思しき物で、顎を下から抑えつけられて、口を塞がれた。
「ぴぃぴぃ、人の庭で鳴きおって。うるさい餓鬼じゃて」
ブラギはゆっくりと杖を退ける。
「あの金髪の尼を出せや! 仲間呼び寄せて、輪姦してやるからよ!」
「ほー、それは楽しそうじゃのう。あの娘は今から来るぞい」
上層より階段で降りて来る者がいる。
完全武装の青い鎧を纏ったキュリアだ。
「師よ。誤解されるような物言いはお止め下さい。上まで聞こえておりました」
「やいやい! 糞尼! この塔ごと、この城ごと、この街ごと、乗っ取ってやる! そして地獄の中で輪姦しなが壊してやるぜ。せいぜい後悔しやがれ」
そう吐き捨てると、魔人は檻の中で魔術を詠唱し始めた。
キュリアが冷めた口調で言う。
「どういうつもりだ? まあ何をしようが、ここからは出られないが」
キュリアの師であるブラギは、椅子に腰掛け、龍の装飾が施された煙管を蒸かせた。
薬剤の匂いが立ち込める。
「ふぅー。こりゃ、相変わらず不味いのぉ。お前も吸うかえ?」
「師よ。私に薦めるのならば『不味い』などとは言わないで頂きたい。それと、私には別のが有りますので、結構ですよ」
魔人が捕まっている檻の前に、緑の炎で出来た魔術陣が浮かび上がる。
魔人が他の魔人を呼び寄せているのだ。
「アレは召喚系の陣ではなく、転移系の陣だのぉ。本当、楽しくなりそうじゃぜ」
魔術陣からはまず上位魔人2体が現れ、檻の前に向かう。
続いて中位魔人4体が二度現れた。
捕らわれている最初の魔人の他に、10体もの魔人が居るのだ。
「おー。ゾロゾロ出て来るわい」
ブラギは殊の外、嬉しそうだ。
現れた上位魔人2人で、檻に外部から魔力を掛け、最初の魔人を救出した。
(逃げられるように、してあんのよ)
ブラギは口元が緩むが、髭で覆われており、キュリア以外は誰も気が付かない。
キュリアが隣で、ぼそりと呟く。
「無邪気……」
「助かったっぜ」
最初の魔人は、直ぐに報復に行くかと思いきや、考えている様だ。
そして仲間に指示を出した。
中位魔人6体がブラギ達を取り囲む。
牽制であろう。地面で睨み合いとなる。
最初の魔人が、上位2体と中位4体を引き連れ、宙に舞う。
キュリアが上を向いて呟く。
「『ここからは出られない』と言ったのを覚えていないのか?」
続けてブラギが魔人に聞こえる様に言う。
「おい、童よ。三つ程、勘違いしておるぞ」
「ぬかせ、ジジイ。あばよ」
ブラギは上昇する魔人達に動揺する事無く、椅子から立ち上がる。
「一服、終わったわい」
上級魔人達は塔の壁を物理的に壊そうとするが、びくともしない。
「一つ、おめーさんは、ここが城にある塔だと思っているようだが、それは違うのう」
話を聞く気は無い様だ。
魔人は魔術を放った。すると見事に壁のブロックが消えた。
「見たか! ジジイ」
だが、目の前には自然の岩壁が存在していた。
「ここは深き洞窟の中じゃぜ」
「糞、ジジイが!」
ブラギとキュリアは、魔術陣へとゆっくりと歩み出した。
中位魔人は気圧されて、道を空けてしまう。
「二つ、おめーらが通って攻めて来られるのに、うち等が通れないと思い込んでおるのう」
ブラギは、床の魔術陣に自らの魔力を注ぎ込み、一部を書き換えた。
「行くぞ、キュリア」
「はッ! 我が師よ」
二人は陣の上に立つ。
ブラギは杖を右手で高く掲げた。
すると、天井の方から轟音が聴こえる。
魔人達は何が起きたのかを理解できず、ただ空中に浮遊しているのみだ。
すると天井から、二頭の馬が空中を闊歩して走り抜け、陣に居る二人の目の前へとやって来る。一陣の風の如く。
轟音の方も徐々に、近づいて来る。
天井が崩れてきたのだ。
魔人の内何体かが、天井から降る岩に押し潰されて、地面に激突した。
ブラギ達は各々手綱を掴む。
ブラギの持っていた杖は魔力を吸収し赤く光り、ルーン文字が浮かび上がる。
神槍グングニィルだ。
ブラギは最後に捨て台詞の様に言う。
「三つ、わしは、おめーらの王よりTUEEEEぜ」
グングニィルを分回し、魔力の混じった衝撃波で陣を取り囲んでいた中位魔人達を一瞬にして真っ二つにした。
そして転移陣を使用する。
二人の姿は、洞窟から一瞬にして消えた。
5話へ つづく
4話をお読みいただき、ありがとうございます。
また多くの方にブックマークを登録していただき、ありがとうございます。
大変、励みとなっています!
Aパートを書き始めた時なのですが……。
書きたい事が多くて、ついつい勢いにまかせて書いてしまいました。
結果、半分くらい削りました。
Web小説の難しさを実感しております。
重加筆版は、いずれ短編でアップしたいと思います。
さて、次の5話はジジ(ブラギ)&ババ(キュリア)無双の回です。
そして、リルとイリーナには新たな出会いが待ち受けています。
主要な4人が全て出揃う5話、お楽しみに!




