<4話> 「亡国の戦乙女」 =Eパート=
修道女の上に乗っている肉塊は、ドサリと音を立てて落っこちた。
修道女が倒れそうになったので、キュリアが背中側から身体で支え、そのまま後ろから抱き抱えた。
肉塊は息絶えた後も僅かに魔力を放っており、キュリアは気になり、直ぐに修道女を離れた場所に横たえた。
キュリアが振り返ると、肉塊からは不気味な青い光が漏れている。
そしてその青い光は、魔術陣へと形を変えた。
肉塊を生贄とし、何者かが召喚転移してくる。
キュリアは、気配でそれが上位魔人の物であると察知した。
数歩ずつ、慎重に近寄る。
錫杖を左手で持ち、左腰に佩刀していた剣を右手で抜刀した。
(この剣の抜刀だけで済む事を祈ろう。あの死を振りまく剣はここで使うには禍々し過ぎる。そう、ここは王都フリードの中心部なのだから)
「上位物理防御力上昇」「上位魔術防御力上昇」
防御系魔術をより強い物に上書きした。
スキル「聖光環」を発動させ、闇属性に対抗する準備をした。
出てくる魔人は1体。予想通り上位魔人だった。
魔人は3メートル近い巨体だ。身体能力も高いであろう。
魔人は出てくるなり、大声で怒鳴り出した。
「あの目玉野郎、見つけたらさっさと呼べと言っておいたのに直ぐ死にやがって。邪神相手に目玉如きが、敵うわけねーのにな。あーそうだろ? イリーナさんよ!」
キュリアは思う。
(この魔人も私を聖女イリーナと勘違いしているのか……)
魔人は罵倒し終えると、消え掛けた魔術陣から忽然と武器を取り出した。
巨大な両手剣だ。
間合いの中に居る事に気が付いたキュリアは、とっさに後ろへと飛んだが、既に遅かった。
振り下ろされた、両手剣がキュリアを襲う。
神殿の入り口まで吹き飛ばされ、更にローブは一瞬にして引き裂かれてしまった。
幸い、中の濃紺色のワンピースは、魔術で護られていた為、無事だ。
引き裂かれたローブをキュリアは武器を持ったまま、強引に破いて脱いだ。
長い金色の髪が現れた。
「ん? 待てお前、イリーナではないな? 青か紫の髪だと聞いているのだが……。あの目玉め、しくじりやがって。使えない奴だぜ」
「青い髪? イリーナ?」
キュリアはようやく、思い出した。
「聖女イリーナ、確か100年近く前に邪神を体内に封じたという……」
(私も70年位前、私が人であった頃に、一目見た事がある。青い髪が美しかったのを覚えている)
「おう、悪いが金髪の嬢ちゃん、人違いだ。運が悪いと思って、死んでくれや」
魔人は言い終わった後、攻撃してくるかと思いきや、黙って考え込んでいる。
「あれ、嬢ちゃんもう死んでね?」
「ああ。半分正解だよ。半分は、我が祖国と共に死んだ。だがもう半分は、お前達や魔神を倒す為に、復活したのさ。健気であろう?」
「がはは、こいつは面白れぇ」
――スキル「即効魔術」発動――
「焼けるであろう?」「フレア・バースト」「ホーリー・ピラー」
火属性と無属性の炎が魔人の身体を侵食する。
聖なる光の巨大支柱が魔人を浄化する。
魔人は片膝をついた。
「いてー。こんガキャあ!」
魔人の体からは、蒸気の様な物が立ち込めている。
キュリアは告げる。
「安心しろ、連発して使えん」
「おーそいつは良かった。って良い訳ねーだろー!」
魔人がキュリアに両手剣で斬りかかった。
Fパートへ つづく




