<4話> 「亡国の戦乙女」 =Dパート=
酒場は夕暮れ時で、数人しかまだ客が入って居なかった。
「あれー、ルイダっち、どうしたすかぁ?」
プルがルイダに問い掛けた。
ルイダは直ぐには答えず、二階席の奥の方のテーブルに、キュリアを案内して、席に着いた。
ルイダがプルにようやく説明する。
「それがね、斯く斯く然々で……」
プルは茶化して言う。
「カクカク鹿鹿っすね?」
「もう……」
ルイダはどうツッコミを入れるか悩んだ。
プルの方から再度、口を開いた。
「えーーー。八英雄!」
ルイダはひそひそ声で言う。
「こっ、声が大きいって」
ルイダが辺りを見渡す。
キュリアが、フードを被っていた為、バレていない様だ。
いやに大きなひそひそ声でプルが言う。
「大丈夫っすよ。酒場で八英雄の話をしたところで、酒の魚としては平凡過ぎて、誰も聞き耳なんか立てないっすよ」
その後、キュリアはルイダから、大体の話を聞いた。
「転移で魔王の城を一瞬だが見た」と言うのは、驚愕の事実だった。
「それでね、私を助けてくれた冒険者の二人って言うのがね、リーー」
ルイダが言おうとした瞬間、キュリアが突然立ち上がった。
「どうしたの? キュリア様」
「あり得ない事が起きた」
「えっ?」
「フリードの街の中で、魔力を感じたのだ。それも人の物ではない禍々しいのをな」
ルイダは怯えた顔を見せた。
「安心して欲しい、ルイダ嬢。私が行って対処してくる。話の内容は大体分かった。辛い記憶を思い出させてしまい、すまなかった」
キュリアはルイダに頭を下げた。
そして、続けて言う。
「今夜はこの宿に泊まる予定であったが、恐らく戻れない。この禍々しい魔力の原因を報告し、今後の対策を立てねば」
「キュリアお姉ちゃん、またねー」
(お姉ちゃん……。ちょっと嬉しい響きだ)
キュリアは余韻に浸る間もなく、酒場を出て魔力を発している場所を目指した。
中央通りは、人でごった返している時間であった為、キュリアは裏道を走って向かった。
(あの位置は、もしかすると、聖母教の神殿がある辺りか? 神殿は儀式の時以外は、無人だったはずだ)
神殿に着くと、深手を負った王国兵が二人、倒れていた。
警戒しながら、キュリアは中位の回復魔術を二人に掛けた。
応急処置といったところだ。
神殿内から声が聞こえた。
「あぁ、慈悲深い光。あなたはやはり聖女イリーナ様なのでしょう?」
聖母教の修道女の声であった。
だが、修道女の上に一つ目の魔物がへばり付いていた。
「ウキャキャ。殺さずにおいて、正解じゃ。聖女じゃ。聖女じゃ。噂は本当じゃで」
「生憎だが、人違いだ」
キュリアは素っ気なく答え、手に持っていた金属製の錫杖を構えた。
そして、思い起こす。
(聖女イリーナ、遠い昔に聞いた事があるような……。大戦の前であろうな。直ぐに思い出せぬ)
「ウヒョヒョヒョ。どちらにせよ、やる事は変わらんワ」
魔物の目玉の周りに触手が生え、それらの内、幾本かが襲ってきた。
キュリアは、一瞬にして2つの詠唱を並行して終える。
常時発動スキルの詠唱時間短縮による効果だ。
「岩壁城壁」「中位物理防御力上昇」
キュリアは、常時2つまでの魔術を同時に唱えられる。
キュリアの周りを青白い光が覆う。
更に、岩で出来た壁が目の前に現れ、触手を防ぐ。
「うぎゃぁぁ、いてー、いてー。この糞尼ぁぁ! だが、これでハッキリしたぜ。やはりお前が聖女だってな。ただの人間があんな魔術を使える訳がねえからな」
キュリアは再び詠唱する。
「中位魔術防御力上昇」「攻撃間隔短縮」
「土乃羽衣」「水乃羽衣」
「おい、目玉。貴様には聞きたい事が山程あるが、どうせ嘘しか言わぬだろう」
「ウギャギャギャギャ」
白いローブを纏った、キュリア。
魔物はただの魔術師と舐めていたのであろう。
一瞬で勝負がついた。
「撲殺だ!」
キュリアは金属製の錫杖を右の片手に持ち替え、距離を詰め背後を取る。
そして修道女の左肩を左手で抑え、乗っている目玉に八連打撃を放った。
最初の数発の時点で既に息絶えていた目玉を容赦なく追撃が襲う。
八撃目が決まった頃には、原形を留めず肉塊と化していた。
「しまった。白いローブが青い血まみれに……」
(迎賓館へ帰った時、メイド達に質問攻めにされそうだ……気が重い)
Eパートへ つづく




