<4話> 「亡国の戦乙女」 =Cパート=
「ようこそ、宿屋『グリフォンの翼』へ。私はこの宿屋の者で、ルイダと申します」
ルイダに案内され、キュリアは宿の中へと入る。
フードを脱いでいた為、受付で直ぐに気付かれてしまった。
「っこ、っこれはキュ……」
キュリアは自分の口に指を当て、「静かに」と仕草で合図を送った。
受付の男は小声になった。
「お忍で、どういった御用件でしょうか? ウチに泊まっている、冒険者の中に不逞の輩でも?」
「いや、違うのだよ。情報収集だ」
「そうでやしたか」
「実は、東の隣国より逃げ延びてきた冒険者が居ると聞いて」
「おぉ、例のアレからですかね」
「そう、アレからだ」
「実は冒険者ではないんですがね」
「ん?」
「キュリア様の直ぐ後ろに」
キュリアは、振り返った。
後ろには案内してくれた少女、ルイダしか居なかった。
「私の姪っ子のルイダでさー」
ルイダを見つめ、キュリアは理解するまでにに二秒の時間を要した。
理解すると、普段は感情を現さないキュリアが驚きの顔を見せた。
「そう…なのか。ルイダ嬢」
「えっ、あっ……、はい」
キュリアは、ルイダの顔をまじまじと見つめた。
ルイダは少し俯き、顔を赤らめる。
「いや、すまなかった。小さな子どもだと、謀った、私を許して貰いたい」
受付へと向き直し、言った。
「どうだろう主人、1番上の部屋を借りる。なので、ルイダ嬢も一晩借りたいのだが?」
「あいにくルイダは、そっち系からっきしですが、殿下が強くお望みとあらば……」
キュリアは男に、軽蔑の眼差しを向ける。
「え、あっ、いや。冗談っすよ……冗談」
「笑えないのは、冗談とは言わんな」
ルイダは意味が理解できなかったらしく、首を傾げていた。
キュリアは言い直す。
「確かこの宿、酒場を併設していたな。部屋ではなく、そこを使う。変な噂を流されたらかなわん……。ルイダ嬢から聴取をする。良いな?」
「も、もちろんでさー。ルイダ、そんな訳でお前さんに聞きたい事があるってさ。今日はもう上がっていいぞー」
急に休んで良いと言われて、ルイダは戸惑う。
「えっと……。伯父様、この方は??」
「ん、まぁ、なんて言うか。お前も知っているだろう?『八英雄』のおとぎ話を」
「ええ。勿論です。この大陸で知らない者は居ないくらい有名ですから」
「なら、話は早い」
キュリアはルイダの方に向き直った。
「どういう事? お姉さん、吟遊詩人さんなの??」
「いや、八英雄の一人、戦乙女。キュリア様その人だよ」
「えーーー。だってあれ、ルイーダお祖母ちゃんが生まれる前だよね?」
「えっと、だな……」
(あの婆さん、孫にさば読んでたな……)
「多分、生まれてたと思うぞ。まぁ、とりあえず、そんぐらい前なのは確かだな」
キュリアが照れて言う。
「こほん。その、何だ……。宜しく頼む」
「よっ、宜しく御願いします! キュリア御婆様」
「(御婆様……)……、ルイダ嬢……」
キュリアは無言で会計を済ませ、ルイダと酒場へと向かった。
Dパートへ つづく




