<4話> 「亡国の戦乙女」 =A´パート=
こちらは、Aパート前半の加筆版となります。
当時はラノベ寄りで書いていた為、実は半分以上を削って投稿しました。
レビューを戴き、日間で3日連続40位以内入りを果たしました。
感謝の気持ちを込めて、掲載いたしました。
10ヵ月前の初々しい私をお楽しみ下さい。恥ずかしい……。
「師よ、それでは行って参ります」
「ああ。キュリアよ」
キュリアは、師であるブラギに片膝を付き敬礼した。
顔を上げると、師の瞳を見つめた。
ブラギに左目はない。
白く長い髭と髪で、右手には長い杖の様な物を持っている。
まさに魔術師といった格好だ。
一方のキュリアは金の長い髪に、青い鎧姿だ。
デザインは軽装備の様に見えるが、その実はフルプレートに近い。
ブラギはキュリアに無言で頷いた。
二人が居る丘の上からは、巨城と広大な城下街が一望できる。
街は外側へ何層にも分かれており、高い建物が地平線を隠す。
その街に負けない巨城には、この丘よりも高い塔が何本も建っていた。
ここは大陸の西部で随一の繁栄を誇る王都「フリード」である。
キュリアは、騎乗した。
灰色の毛並みだが、黒い鬣と尾が印象的な馬だ。
騎乗したまま、ゆっくりと剣を抜き、自身の体の前に立て、敬礼する。
そして、師であるブラギの元を後にした。
馬で駆けること十数分、既に街へと入っていた。
この街は何層にも分かれており、城郭の中の街をフリード、城郭の外に広がる街をフリズスと人々は呼ぶ。
フリズスでの商いには、特定の業種を除いて、税金が免除されているが、大抵の商店は、組合に所属しており、組合にお金を納めている。
自分で店舗を構えていなくとも、場所代込みの上納金さえ組合に払えば、場所を提供してもらい、直ぐに誰でも商売が始められる仕組みだ。
言うなれば楽市楽座に近い。
一方、フリードでの商いには税金が掛かる。
その分、権利が保障されており、評判が上がり、チャンスを掴めば、貴族との取引により莫大な富を築く事が出来る。
この様に二つの性質の異なる街を合わせ持つ、不思議な街である。
フリズスからフリード内へと入る場合、通常は検問を受ける。
検問を行っているのは、民兵と組合から派遣された商人である。
民間で篩いに掛け、怪しい者や特定の商品の持ち込みにのみ、王国の兵が検査をする。
検問を受けずに通れる者も居る。
それはフリードの市民及び、王侯貴族だ。
また特別に検問を簡単な書類のみで通過できる商人も居る。
他の都市の検問所とは異なり、煉瓦や木造の屋根があり1つの町の様である。
番号札を持った1~2名のみが並べば良く、順番が近づくまでは、周りの露天で寛げる。
長蛇の列に対して、許可を得て飲食物の販売もしている。ただし、検問の前という事もあり、お酒は販売禁止となっている。
この街の商人の逞しさが伺える場所だ。
そこを灰色の毛をした馬と、それに騎乗する青き鎧の乙女が、金の髪を靡かせて駆け抜ける。
その姿は、列に並ぶ誰もが憧れを抱かすにはいられない程、美しかった。
検問の高台にいた兵士がそれに気が付き、合図を送る。
「開門!」
通常の検問とは異なる鉄製の格子扉が、重量ゆえに、ゆっくりと開いていく。
馬はやがて、徐々に速度を落とす。
乙女が王国兵に声を掛けた。
「ご苦労」
その場に居た槍を持った兵が敬礼で出迎える。
そして馬ごと、兵の詰め所の方へと消えていった。
その馬に騎乗していた乙女とはもちろん、キュリアである。
キュリアは、この国で武術と兵法の指南役として王家に招かれており、王侯貴族の様な待遇を受けていた。
特別な待遇で、さぞ貴族に恨まれているのでは?と普通は思うが、キュリアの場合は別である。
師ブラギの後ろ盾があり、軍事に関わりの無い事には、一切の口を出さない。
よって貴族は、キュリアに一目置いており、他国の王大使に対する態度に近い。
そして何より崇拝されているのだ。
齢70を超えたはずの彼女の姿は、貴族たちが子どもの頃に憧れ見た勇姿そのままなのである。
キュリアは馬を降り、詰め所の兵に労いの言葉を掛けた。
兵たちは、憧れの眼差しで彼女を見ている。
その後、キュリアは詰め所を抜けてフリードの街へと入った。
フリードの中央通りは、煉瓦で出来ており、城の外壁まで真っ直ぐ続いている。
お堀を2つ越えた辺りが貴族の住んでいる地区だ。
そこを抜けると城壁があり、旧市街へと続く。
旧市街は現在、王族と上位階級貴族の別邸のみがある。
城壁内の旧市街へは厳しい検査を受け、許可を得なければ入れない。
また、一部を観光客に解放しているので、旅行組合を通せば歴史的な街を見学できる。




