<1話> 「GMのお仕事」 =Aパート=
「ピロピロりん」
いつもの様に鳴るコミカルなアラームの音。
それはGM、ゲームマスターが呼ばれた時の音なのです。
私はフルダイブ型MMORPGを運営している〝とある会社〞にて、GMのお仕事をしています。
え? じゃあ、その「GMのお仕事」というのは何なのか――ですって?
ん~。解り易く言うと、オンラインゲーム上でのプレイヤーに対するサポート係り――かな。
「ピロピロりん」「ピロピロりん」
はいはい。今、行きますよー。
まずは、ボイスチャットでの対応をします。
GM_α:「お待たせいたしました。どうなされましたか?」
おや、若い女性の声が聴こえてきましたよ。
Player:「なんかー、建物とー、オブジェクトの間に挟まっちゃってー。
ログアウトとログインをし直してみたけれど、ダメでした(>_<)」
GM_α:「そうでしたか。ご不便をお掛けいたします。
では、私がそちらへ伺いますので、少し……お待ち下さい」
Player:「はい! 待ってますぅ。GMさんお願いします。」
私の操作しているGMアバターというキャラクターは、鎧を装備しています。
鎧は赤と銀の金属プレートで全身を覆うタイプなのですが、一目でGMと判るように兎角派手なのです。
例えるならば「消防車」や、「ウノレトラマン」。
そして持ち込まれる相談は、ご近所トラブルから、怪獣トラブルまで、実に多岐に渡ります。
GM専用の移動スキル「跳躍」を使い、今日も困っているプレイヤーさんの元へと駆け付けるのです。
GM_α:「お待たせいたしました」
私が駆け付けた先には、髪がピンクの魔法少女みたいな姿のアバターが。
頭に付いているネコ耳が小刻みに動き、その姿は愛らしい。
Player:「早いですね! ぜんぜん待ってないのですよー。お願いします。」
もぞもぞとネコ耳少女は動き、その場から移動できない事をアピールしていますね。
確かに、建物の壁とその直ぐ隣に置いてある木箱に挟まっている様です。
GM_α:「今、移動させますね」
Player:「はい! この木箱、破壊不能になっ――」
私は唯一使える魔法、GM専用の「転移魔法」を使用しました。
ポワ~ン!!
効果音と共に効果エフェクトが発動。
ネコ耳少女は瞬間移動し、私の目の前に無事現れました。
Player:「――って、困っていたんですよ。って、あれ?
移動してる!? ありがとうございます。」
GM_α:「いえいえ、どういたしまして」
Player:「助かりました。GMさん、ありがとう^^」
GM_α:「これで大丈夫ですね。それでは、良き旅を(^_^)」
そうお約束の台詞を最後に告げた私は、移動スキル「跳躍」を使い、自分のデスクがある部屋へと戻りました。
仮想空間内であるけれど、業務である為、報告書を作成する必要があったのです。
作業自体は簡略化されていて、リストにチェックを入れて記録を残すだけです。
その後、アイテムトラブルが1件。
アイテムに関わるプレイヤー同士のトラブルが1件。
暴言や卑猥な言葉を他のプレイヤーに浴びせるハラスメント系のトラブルが2件。
私は、なんとか無事に解決させたのです。
そして、それらの報告書を全て作成し終えた時でした。
いつものコミカルな音がしたのです。
「ピロピロりん」
(今度は何だろう?)
私は直ぐにチャットを飛ばしました。
GM_α:「どうされました?」
30歳前後と思われる男性の声が聞こえてきます。
Player:「すみません、ちょっと敵の挙動がおかしくて。
死んでヘイト抜けてるハズなのに。
一度ログアウトしても、タゲが切れなくて。
実際に見ていただけますか?」
つまり、こういう事らしいです。
――敵に襲われない状態のはずだが、不具合で襲われている。
――だから原因を調べに来てもらいたい。
GM_α:「分かりました。直ぐに伺ます」
そう告げた私は、いつもの様にGMのスキルを使い、跳躍しました。
GM_α:「え?」
突然、視界に影が落ちる。
それもそのはず。目の前に、高層ビル10階層分はある超弩級のドラゴンがいたのだから。
プチっ
超弩級のドラゴンに押し潰され、私は一瞬のうちに死んでしまった。
ええ。はい。GMは無敵じゃないんです!!
Bパートへ つづく
2019.12改訂版