<3話> 「聖女と邪神と」 =Iパート=
「お姉さま、お姉さま」
イリーナの声で、目を覚ました。
(あれ? あれれ? 夢??)
自分の身体を見た。
(なんか、べたべたする。
プルを担いだ時にお酒が付いたかな? 髪の毛も濡れていたしね)
「どうしました? お姉さま。何か悪い夢でも?」
「ええ、よく覚えていないのだけれども、そうみたいね」
何故か、頭が痛い。
昨晩の二日酔いが、緊張感が切れて今やってきた?
日が昇りかけていた。もう直ぐ日の出であろう。
プルは先に目を覚ましていた様だ。
「リルちゃあぁぁん」
プルが上半身を起こした私に抱き着いてきた。
(お酒臭っ)
プルの大きな声にルイダも起きてしまった様だ。
プルは泣きながら言った。
「イリーナ様に聞いたよ。
助けてくれたんだって。命の恩人だよ。ありがとう!
ルイーダ婆の話も聞いたよ。うわーーぁぁあん」
その後、ルイダも寄ってきて、流されて3人で輪になって泣いてしまった。
肌に着いてたアルコールの飛んだお酒が涙で溶けて、ぐっちょぐちょ。
イリーナだけは、お母さんの様に立ったままで優しく微笑みながら泣いていた。
(天使じゃなくて、母神だな)
色々とばっちい私たちは、とりあえず川で水浴びをした。
もうその頃には、すっかり日の出を迎えていた。
服も軽く水で洗った。
冬でなくて良かった。
その後も、良く分らないノリで、乾く前に濡れた格好のままで1時間程歩いた。
比較的くっきりとした獣道だった。
獣道から林道へ出た。
その頃には、服も透けない程度には乾いていた。
そこからさらに歩くこと20分、無事に付いた。
(ルイダは「小屋」って言っていたけれど。
普通に日本の分譲住宅3軒分あるんですが……)
ルイダがグリフォンの爪と共通のマスターキーを持っており、それを使い、地面に隠してあった建物の鍵を取り出した。
中は掃除しないと埃っぽいので、外にあるテーブルで朝食を摂る事になった。
食料庫にあった乾燥パスタを茹でて、オリーブオイルと乾燥させてあった香草を和えた。
おかずはチーズと、ジャーキー。
(ジャーキーが何の肉かは、この際聞かないでおこう)
パッパルデッレだったかな? きしめんみたいなパスタ。
それを10センチ位の長さにしてあるパスタだった。
ジャーキーは鴨っぽい味だったから、鳥の肉かもしれない。(一安心)
結構おいしかったよ。
「ごちそうさま」
皆で作って皆で食べ終わった。
食べ終わると、ルイダが私の方を見て言う。
「リルお姉ちゃん、約束通り私の作った朝食を食べてくれたね。うれしい……」
(なんて健気な娘なんだろう……)
「ルイダ、かわいいよルイダ」
私たちは小屋の中を掃除して、住める状態にして、1泊した。
プルはルイダと行動を今後は共にするという。
祖母ルイーダにお世話になっていたからだと。
ルイダたちは「暫くここに滞在し、その後は隣国の街で宿屋を経営している親類を訪ねる」との事だ。
翌日、私はイリーナと旅立った。
淀んだ空ではあったが、時より差し込む日の光は暖かい。
この世界へ来て、まだ数日。
目的や帰る方法も定かではない。
私はこの世界へ来る前、様々なゲームや仮想世界、電脳世界を通じ、様々な仲間を得た。
今は全く連絡の付かない仲間達。
今でも10年来の付き合いをしている仲間達。
リアルで結婚した仲間達。
様々な出会いと、そして別れがあった。
辛い思い出も勿論沢山ある。
だけれども、私には一つ言える事がある。
「仲間との冒険というのは、掛け替えのないものだ。例え別れを迎えたとしても、共に冒険した思い出はいつまでも胸の内にある」
「何か言いまして?」
イリーナが不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
私は逸らかし、イリーナと憑依している邪神へ言った。
「では、行きましょうか。世界の半分と、そして異世界を目指す、冒険の旅へと」
「はい。リルお姉さま!」 「フフフフ」
4話へ つづく
3話をお読みいただき、ありがとうございます。
本来ならばイリーナから邪神が抜け、イリーナと二人旅のハズでしたが、
リルにそそのかされて、邪神が憑いてきて来てしまいました。
作者の私自身の予想をも越えた展開です。
私自身もこれからどうなるのか楽しみな娘達です。
(リルっち、イリーナの初期設定を序盤で壊しちゃって、さぁ。……どうするの?)
4話からは戦乙女編です。お楽しみに!




