<3話> 「聖女と邪神と」 =Fパート=
私はルイダの手を握り、イリーナは屈んだままプルの上半身を抱き抱えた。
私とイリーナは、それぞれの空いた手に麒麟の髭を持った。
まず、私が使う事にする。転移先で戦闘になったら、私が闘っている間に、イリーナに転移を任せる手筈だ。
「じゃあ、移動するよ」
私は麒麟の髭を使った。
目的地は、絶対座標高度0、上空約8000メートルにある私の自室だ。
雷と共に上空へ舞い上がり、転移した。
転移先で再び雷と共に落ちるのだが、今回は更に舞い上がった。
しかし到着直前、雷、つまり我々は弾かれてしまった。
行き場のなくなった雷はそのまま、真下へと落下した。
雷と共に、地表に到着した。
その轟音は、辺り一帯に響き渡る。
眼下を見渡すと、信じられない光景が広がっていた。
昨日まで長閑な平原であった場所。
そこに禍々しい巨大な要塞と城、そしてそれに負けない街が出来ていたのだ。
城は私の自室のほぼ真下。
私と同じく異世界より来たのであろうか、或はこの世界によって作られたのであろうか。
イリーナが言った。
「これは魔界にあった、私が邪神と共に幽閉されていた魔王の居城ですわ」
(なんてこった。
RPGでいうプレイ開始前のオープニングロールの段階じゃないですか……。
せめてオープニング終わってからゲームを始めさせて下さいよ。
最初のイベントが町の全滅だなんて、エグ過ぎてクソゲー過ぎます)
(――って、待てよ。
あぁ、私ってばオープニングぶち壊しちゃったんじゃないですか!?)
「お姉さま、ここは危険過ぎます。直ちに……」
おそらく、魔王の城には部外者が転移できない様に魔力的に、あるいはシステム的に保護されているに違いない。
自分の元居た世界へと繋がる可能性のある自室に戻るには、魔王を倒さなければならないのだ。
これは酷い設定だ……。
「イリーナお願い! 手筈通りに」
イリーナは頷くと、麒麟の力を使った。
再び雷が、私たちを運ぶ。
雷は自然の摂理に逆らい、山の麓へと落ちた。
今度は無事に到着した。
Gパートへ つづく




