<3話> 「聖女と邪神と」 =Dパート=
「ヴァルハラ様、貴女様は太陽神の生まれ変わりなのですか?」
「へ?」
「邪神をも従えるその御神力、恐れ入ります」
「えーーッ!?
私は神でも、神の使途でもないわ。呼び方もリルで良いし」
「そんな、恐れ多い……。
それでは『リル様』いえ、『リルお姉さま』と呼ばせていただきます」
(何か、妖しい方向に向いてないかい? 百合的な……)
私の心境は複雑だ。
宿屋を見た。
救えた命、救えなかった命。
一時的に解決はしたが、直ぐに魔王軍の幹部や側近が目の前に現れるかも知れない状況だ。
まずは、宿屋へと戻り、ルイダの身の安全を確保しよう。
そして、何かの縁だ。
可能ならばさっきまで飲んでいた「夜の錦亭」へも行ってみるか。
「イリーナ、その落ちている≪麒麟の髭≫は使えて?」
「はい! お姉さま」
「そっ、そう。良かったわ……。
これから、宿の中に隠れている女の子、ルイダと合流します。
あの宿の主に頼まれた孫。
宿主である祖母は亡くなってしまい、ショックを受けているの」
「ええ」
イリーナはうつむいて顔を見せないまま、足元の髭を拾った。
「お姉さま、私、暫く記憶が無いのです。
もしかしてあの宿屋は、私……或いは私の中の……」
言い終える前に、私は答えた。
「違うわ、イリーナ」
私は首を横に何度かゆっくりと振った。
「そう……。お姉さま……」
「私はスキルと魔法で転移が使えますが、スキルでは恐らく他人を飛ばせないの。
本当はルイダを転移魔法で目の前に連れてきたいのだけれど……。
ショックを受けている子どもなので、私が迎えに行きます」
「はい」
イリーナが頷く。
「ルイダと合流したら直ぐ、あなたに転移魔法を掛けて宿屋内に転移させます」
「はい」
イリーナは頷き、私の瞳を真剣な眼差しで見つめてきた。
私はイリーナに頷き返すと、スキルで宿屋の受付へと飛んだ。
「ルイダちゃん」
驚かさないように、少し離れた距離から優しく声を掛けた。
カウンターの下でうずくまり、うなだれていた。
私が数歩近づくと、少し間を置いて、ルイダが答えた。
「え、お姉ちゃん、生きていたんだ。てっきり私……」
私の声が、地獄に垂らされた雲の糸の様に感じたに違いない。
ルイダの声のトーンが明るい。
(良かった)
私はもう安全だと教える為に膝を突き、目線の高さを合わせ、ルイダのフードを取り、お互いの顔を見せ合った。
そして私は、ルイダを抱きしめた。
「ルイダちゃん。すぐ外にね、私の仲間の女の子がいるの。
外はまだ危ないから、私の魔法で直ぐにここに転移させたいの。
いきなり目の前に現れるけれど、驚かないでね」
「えっ、う、うん。わかった」
私はイリーナを転移魔法で呼び寄せた。
転移で現れたイリーナに、ルイダは言った。
「めっ、女神さま!!?」
ルイダは手を合わせ、イリーナを崇拝し始めた。
イリーナは光の魔法を唱えた。
ほのかな優しい光に辺りが包まれた。
魅了されていた時には、淡い紫であったイリーナの髪の毛は、綺麗な群青色になっていた。
そして瞳は銀色に輝いていた。
「ルイダちゃん、はじめまして。イリーナと申します」
(イリーナたん、マジ天使……だ)
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職業:聖女
状態:秩序/混沌/憑依/祟り
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ステータスを確認した。
魅了と拘束が消え、秩序が付いていた。
秩序と混沌が同時に存在する聖女か。
Eパートへ つづく




