<3話> 「聖女と邪神と」 =Bパート=
私は槍投げの要領で、髭を暗黒騎士目掛けて投げつけた。
赤い髪がなびく。
暗黒騎士の対応が遅れた。
髪で私の動きが認識し辛かった様だ。
盾を構えたが、構えが浅い。
「麒麟の髭」は1体を盾ごと貫いた。
そして貫いた瞬間に天空より稲妻が降りそそいだ。
追加効果の雷撃であろう。
使った私自身が一番驚いた。
が、手は緩めない。
貫いた後、髭の勢いはまだ収まらない。
私は回転を加えて投げていた。
ドリルが突き刺さった様なものだ。
その髭に転移魔法を掛けた。
転移先は、もう1体の暗黒騎士の背後だ。
見事に貫き通し、また稲妻が降り雷撃の追加効果が発動した。
そして、髭は再び私の足下へと、飛来し突き刺さった。
自分で思った。
(あれ、このコンボ技、もしかして初見殺し?)
雷撃により暗黒騎士は消し炭となり、乗っていた飛竜2体は、落下し地表との激突で瀕死となった。
「やるではないか、赤髪の娘よ」
暗黒竜が地表へと降り立った。
「だが、今の転移魔法は我には効かぬぞ」
(試してみるか? 既にさっきのコンボは見られている。次は初見殺しではなくなる。止めておこう。防がれる未来しか想像できない)
巫女を観察する。
1つ疑問が浮かぶ。
暗黒竜と違い、あの巫女の純粋な近接戦闘能力はどれ程のものなのかと。
(試してみるか)
私は魔人と同じくGM権限付き転移魔法で、暗黒竜の方を強制転移した。
2000メートル上空へだ。
突如、跨がっていた竜が居なくなったのにも関わらず、巫女の身体は片足を曲げた姿で浮いている。
巫女は曲げていた片足を徐々に戻しながら、ゆっくりと降りてきた。
地面に着かず、微かに浮遊している。
巫女は左手に麒麟の髭を持ち、薄ら笑いを浮かべている。
私は距離を詰めた。
右手でやや上段に構え、そこから変化を付けられる様にした。
剣の間合いに入る!
私は右脚をワザと動かし、フェイントを入れた。
やや腰を落とし相手の右首を狙い左袈裟斬りだ。
邪神の反応は、人の速度を越えていた。
しかし、憑依先はあくまで人の身だ。
防御は遅れ、十分ではなかった。
巫女は鎖で剣の刃から身体を護ったが、僅かに刃が右脇腹に当たり、斬られた。
それを狙っていたのか、斬られながらも左手の髭で突いてきた。
だが、私はまだ攻撃を止めた訳ではない。
刃を鎖で抑えられた状態のまま、両手で剣を持ち体重を掛けて、突き飛ばした。
巫女の突きは、勢いを弱め、私の鎧を貫くまでにはいたらなかった。
宙に浮遊していた巫女は、4メートル程吹き飛び、地面に片膝を突き止まった。
巫女の右脇腹を見ると、既に斬られた痕が消えていた。
「瞬間発動できる回復魔法……。厄介ね。そちらは相撃ち狙いでも良いなんて」
巫女はゆっくりと立ち上がり答える。
「だがしかし、恐らく憑依したこの身では、ぬしには勝てぬな。髭と憑依体の巫女、想定外の手痛い損失よ。我の行動が軽率であった為であろうな」
少し沈黙の後、再度口を開いた。
「もし、我の味方になれば世界の半分を御主にやろう――」
「――どうじゃ? わしの味方になるか?」
Cパートへ つづく




