<23話> 「強襲! 魔粘性白金生命体 ~ホワイトメタルスライム~」 <Hパート>
キュリアの身体は不老であるものの、半分は精霊体に近い。
故に魔素を完全に奪われてしまうと、その身体の半分が死んでしまう。
そうなると、存在する事ができずに、この世から消えてしまう。
魔力を吸うこの粘性生物は、キュリアにとって言わば天敵なのだ。
粘性生物、恐るべし。
いや、剣を交えた時の感覚から察するに粘性生物ですらないのかも知れない。
アレは『魔粘性白金生命体』とでも呼ぶべき個体なのであろう。
個体? ――いやそれも違う。
集合体だ。先程からアレを魔法で強制転移させている。
だが発動しても、集合体としてその場に存在しているのだ。
私の腕を後ろで縛り付けている金属は、アレから分離した一部。
硬質化すると、勇者ティーナが持つ盾並みの強度だ。
漸く意識と視界のはっきりしてきた私は、床を転がりキュリアの様子を窺う。
赤きマグマの衣装は、至る処が虫喰いとなっていた。
乳白色の粘性液が付着しており、それらは服の繊維を糧としているのではと思わせる程に妖しく蠢く。
キュリアは魔粘性白金生命体の本体に身を包まれ浮かんでいた。
ウォーターベッドの上で寝そべっているかの様に、一見穏やかに見える。
皮膚は溶けておらず、素肌を虫喰いの穴からさらけ出しつつ、伸びる両の素足は何とも艶っぽい。
これは植物と昆虫の如き、共生共存を模索し始めているのであろうか?
私は後ろ手で倒れたまま、キュリアの横へと転移する。
「キュリア、喋れて? ……意識は?」
「り…る……どの……」
キュリアは天井を見上げたままで振り向かず、掠れた声を発した。
「意識は……あるのです。ですが、か……身体が……」
白い触手に引っ張られ、キュリアは上半身を起こす。
綺麗なプラチナブロンドの髪は、乳白色の粘液に汚されていた。
起き上がる事により、それらは服の中へと垂れ落ちていく。
二人羽織の様に、キュリアの背中にはベタリと本体がへばり付いていた。
触手がキュリアを後ろから羽交い締めにして担ぐ。
けれどキュリアは、力なくその場に蹲り倒れてしまう。
触手からはスルリと抜けて出られた。
懸命に這い蹲り、そして私の脚へと伸し掛かる。
手を縛られた状態でキュリアに乗られた為、私は身動きが全く取れない。
すると、ひんやりとした感覚に脚が包まれた。
キュリアの素足――絹織物の様な肌が私の外股に触れると、挟み込まれた。
「魔力を……」
「えっ!? 魔力?? どっ……どうやっ――」
温かい――。
柔らかい――。
そして、良い香り――。
反射的に目を閉じていた。
これはキュリアの温もり。
媾う唇。絡み合う指と指。
(えっ……ちょッ。……えっ?)
キュリアはアレに魅了されているのかも知れない。
きっと、そうだ。私が何とかしなければ。
「うんにゃぁぁあああああ!!!!」
ありったけの力を込めて、両手を拘束している金属を引き千切る。
乾いた金属音が床を跳ね、両腕は解放された。
キュリアは上半身を起こし馬乗りに成るも、私を唯々見ているだけだ。
「キュリア、やったわ! ……しまッ――」
紫色に輝く瞳は、直視した私の心を奪っていった。
意識が遠のく。眠りに落ちていくかの様に。
――『魅了』だ。
≪ 半抵抗力 発動 ≫
目覚める様に意識が戻ってきた。
半抵抗力のお陰であろう。
だが、完全に防いだわけではない。
意識はあるものの身体の自由が全く効かないのだ。
これでは、腕を解く前よりも事態が悪化しているではないか。
なんと言うことだ。
それでいて、動けない私の上にキュリアは馬乗りとなってる。
愈々これはまずい。――そう思った時だ。
石扉の開く音が聞こえた。
そういえば、先程から石扉の音が幾度か聞こえていた。
「姉様? 無事?」
(ソフィア? ……なの?)
「特に敵はいなさそうですが?」
(マリンちゃんまで? うそよ? ダメ……、二人とも逃げて……)
Iパートへ つづく




