<23話> 「強襲! 魔粘性白金生命体 ~ホワイトメタルスライム~」 =Eパート=
「ソフィア、イリーナに合図をお願い」
「姉様、うん。わかった」
数秒すると、目の前の石扉が開く。
かれこれ15分以上は経ったであろう。
静けさが時間の感覚を鈍らせてくれる。
石扉を何個も超えた。
遺跡は想像以上に複雑だった。
最深部にはある程度の大きさの部屋があるはずだと思われる。
ところが、同じ様な小部屋までしか辿り着けないでいた。
「おかしいわよね? 今、イリーナには閉じて貰っているのよね」
「姉様、その通りです」
けれども目の前の石扉は開かれている。目の前に突き付けられた矛盾。
「もしや?」と思い、イリーナに開けるようにと指示を出す。
すると、目の前の石扉が閉じたのだ。
これは誤算だ。
ソフィアが開閉の係だった時は、一定時間毎に開閉を繰り返していた。
しかしイリーナが開閉の係である今は、ソフィアがテレパシーで「開けて」と指示を送り、開けた後は指示なしで直ぐに閉じる事にしていた。
つまりは、なるべく閉じた状態を維持して貰っていたのだ。
どうやら、それが裏目に出てしまった。
私たちは誤解していたのだ。
イリーナに操作して貰っているのは、開閉の装置ではなかった。
二つの連動した開閉装置だったのだ。
要するに、こういう事だ。
扉をA群とB群に分けるとする。
イリーナのいる部屋の扉がA群であり、目の前の扉はB群なのだ。
そして、A群が開くとB群は閉じ、A群が閉じるとB群は開く。
おそらく、そういう仕掛けなのであろう。
「少し戻りましょう。側面の扉を見逃している可能性があるわ」
すると案の定、見逃していた新たな石扉を発見した。
私たちはそこから、下の階層へと降りる。
確かに遺跡の構造は複雑だ。
けれど、魔物の出ないダンジョンなど、恐るるに足らない。
私たちはその後、順調に古代遺跡を侵略していった。
両手剣を持つソフィアを先頭に直ぐ後ろにマリンちゃん。
エミアスは錫杖を持っている。
私とキュリアは素手だが、いざとなれば装備を出せば良い。
それにキュリアは武器がなくとも、魔術だけで十分に強い。
「この遺跡には何も居ない……、それが正解かしらね?」
「そうですね、リル様。虫一匹、生き物の気配すら全くありません」
エミアスは髪の毛から長く突き出ている耳に意識を集中している様だ。
「リル殿、私はこの静けさがかえって不気味でなりません。何かありそうな」
「英雄の勘……ていうやつかしら?
私はこの世界に詳しくないから、からっきしだわ」
「姉様……」
「あら、また扉。今度のは、やけに近いわね」
石扉が開き始めると、何かがこちらへ向かってくる音がした。それも複数だ。
私たちは身構える。ソフィアは両手剣を突き出して構え、剣に魔術の炎を灯す。
音から察するに四足歩行の魔獣であろう。
やがて足音は近づき、ゆっくりしたものへと変化した。
「やー。全く酷い目に遭ったぜ」
(え? 人間? てか、何処かで聞いた事があるような……声)
「待ってくださいよッ。スパスの旦那ぁ~」
「まったく、こんなに逃げたのは洞窟エルフの国以来だぜぇい……おいおい」
奥の方から人影が二つ、迫ってきた。
「あれ? スパ……、ちょッッツツツツつつ!!」
「え? うそ。お父……さん?」
「ああ、姐さんに義姉さん?」
「ちょッ、男二人で何!?」
スパスとシーゲールは、一糸纏わぬ姿で私たちの目の前に現れたのだ。
いや正確には、スパスは緑色の帽子だけは被っていたのだが。
「スパス、最低……」
ソフィアはそっぽを向く。
「………」
キュリアは見ないふりをして、指の隙間から眺めている。
「服は? 服はどうしたの!?」
「いや、違うんですよ。姐さん……」
「お父さん……――」
マリンちゃんは泣きながら、来た通路を逆走していってしまう。
全裸で登場した男二人。片方が自分の父親だと知った時、娘としては現実逃避しか選択肢がない。
「ちが、違うんだ……マリン……」
父であるシーゲイルは、直ぐに全裸で娘を追いかけていった。
「ズルい。俺も!!」
スパスは更にそれを追いかけて、その場から、凄い勢いで居なくなった。
「ソフィア、お願い!」
さすがにマリンちゃんをこの古代遺跡で独りにはできない。
溜め息混じりで小さく頷くと、ソフィアはマリンちゃんを警護すべく、追いかけていった。
「ん~。どうしよう」
この場に残ったのは、私とキュリアとエミアスだ。
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► 三人で行くべきか?
皆を待つべきか?
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私たちは三人で進む事とした。
最深部に封印されているヤツを、おそらくナメていたのだ。
この判断ミスが最悪の結果を生むとは、思いも寄らずに。
Fパートへ つづく




