<23話> 「強襲! 魔粘性白金生命体 ~ホワイトメタルスライム~」 =Dパート=
私たちは三つ胸のエルフを先頭に、古代遺跡の地下階層入口へと至る。
聖母教総本山の遺跡と同様、内部構造は人の為のそれよりも随分と大きい。
四角く削られた大きな灰色の岩が、幾重にも積み重ねられ出来ている。
繋ぎ目に生えた苔が金緑色に光り、薄暗くはあるも視界は良好だ。
階段を降りて通路を進む。抜けた先は、どうやら小部屋だ。
その小部屋より、先程から人の気配を感じている。私は小部屋の中を見つめた。
薄暗い中、猫の様に黄色く輝いて見える瞳。
微かな光を浴び薄紫色を放つ髪。
ヴァンパイアの様に白く透き通った肌。
――洞窟エルフ。
イリーナの友であり、私たちの戦友。そして仲間。
居たのは、ソフィアだったのだ。
「ソフィー」
そのサプライズに、イリーナは嬉しそうに名前を呼んで駆け寄り、手を取った。
一方のソフィアは随分と前から気が付いていたのであろう。
イリーナの声に対して驚いた素振りはなかった。
イリーナは寄り掛かり凭れてソフィアに抱き付く。
ソフィアは自分よりも一回り身体の大きなイリーナを容易く支えた。
けれどさすがに、イリーナの行動には驚いている。
「リーナ……。姉様。えっと、キュリアにエミアスまで。
皆で何? 一体どうしたの? ……事件?」
イリーナはソフィアの独占にある程度満足したのか、両腕を離した。
「ソフィーこそ……こんな所に独りで、いったい何を?」
「わたしはスパスたちと、遺跡の調査に」
「そうなのね。
私たちの方は、こちらのマリンさんに教えていただいた飛来物の調査をしに」
イリーナはマリンちゃんの肩を両手で後ろからソフィアの前まで押す。
マリンちゃんは突然押し出され、声が上ずる。
「ど…どうも。はじめま…して……マリンです」
「よろしく。わたしソフィア」
いつもの調子で返す。
別に素っ気なくしている訳ではないし、機嫌が悪い訳でもない。
いつでも、誰に対しても、こんな感じだ。
けれど、マリンちゃんは一言でそれを過去のものとする。
「ソフィアさんて、妖精みたい……綺麗」
「なッ」
青白いはずのソフィアの頬が、心なし血色の良い頬へと変化した。
「あっ……。ごめんなさい。あまりにも綺麗だったもので……」
これまで見せた事のない照れた仕草のソフィアは、地面を見つめてもじもじとし始めていた。
ソフィアの心を一瞬で掴んだのだ。
マリンちゃんは賺さず距離を詰めると、互いの手を取り合った。
すると今度は、ソフィアが腕を伸ばし、マリンちゃんの背部に手を回した。
同じような背丈の二人は、一瞬で肩寄せあう親友になっていた。
「えっ! マリンちゃんのコミュ力、凄くない!?」
その後、互いの持つ情報を交換した。
私たちは飛来物に関して。ソフィアはこの古代遺跡に関して。
この小部屋には大きな石扉がある。
だが石扉の開閉装置は、この部屋にしかないそうだ。
なので後から来た者が石扉を閉めてしまうと、内部に閉じ込められてしまう。
内側からは開けられない仕様なのだという。
そこで、内部に入ったスパスたちが閉じ込められないようにと、ソフィアは開閉装置の見張り番を任されていたのだ。
開閉装置は地面から突き出た、椅子位の大きさの四角い石が二つあるだけのシンプルな構造だ。
片方を地面に押し込むと、もう片方はせり上り、石扉が開閉する。
しかも石扉はここだけでなく、更に深部の石扉とも連動しているのだそうだ。
細い腕のソフィアは装置をひょいと、それも片腕で軽々操作する。
定期的に石扉を開けたり閉めたりしているのだ。
私たちは誰がこの小部屋に残るか考えた。
議論の末、その役はイリーナが代わる事になった。
勇者ヴァレンティーナの一件以来、イリーナを独りにする事は避けていた。
けれど、この古代遺跡の奥に何が居るのか、あるいは何も居ないのか、全く不明なのだ。
何も問題のなかった飛来物の件とは違う。
この古代遺跡には、神話クラスの魔神が封印されている可能性だってある。
一方、外はピクニックに最適な平凡な日常世界が広がっている。
何かあったとしても、ここの石扉を閉じてしまいさえすれば良いのだ。
現時点では、石扉の外の方が間違いなく安全だ。
それに万が一、扉が閉じた状態で異常が起きたとしても、私ならば直ぐに転移してイリーナを助けに来られる。
それと、私が石扉の開閉装置を弄れば、仲間を外へ逃がす事もできる。
私はこの開閉装置のある座標を記録した。
石扉の向こう側へと私たちが進むと、イリーナは開閉装置である石の上へと腰を落とした。
石は重みでゆっくりと沈んでゆく。
「いってらっしゃいませっ!」
座ったままイリーナは、笑顔で手を振っている。
「何かあったら、ソフィアがテレパシーを飛ばすから、心配しないで……」
石の扉が閉じると、声は届かなくなった。外の環境音が遮断されて。
不気味な静けさを、自分たちの衣服が擦れる音が上書きし、奥へと響く。
更にその音は自分たちの進む際の足音に掻き消されていくのだった。
Eパートへ つづく




