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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第六章 1節   <23話>
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<23話> 「強襲! 魔粘性白金生命体 ~ホワイトメタルスライム~」 =Bパート=


若い声が、冷めた石畳を返してこだまする。

この教会を取り仕切る司祭ハルモニアは、80近い年齢ではあるのだが、声が若いのだ。

そしてその声は、いつにも増して高く可愛らしくある。まるで少女の様だ。


対話するキュリアの声も、心成こころなし高くなっていた。


「それにしても、キュリアさん――

 キュリアきょうが、八英雄の戦乙女なのだと知った時、わたくしはそれはもう……」


「またその話ですか……」


「ええ。だって昔から、八英雄に憧れていたものですから」

ハルモニアは剣を構えるマネをして、素振りを始めた。

だがその動きは、ぎこちない。

何回かの素振りの後、一旦ハルモニアは動きを止める。


「あら、わたくしとした事が、戦乙女は二刀の剣でした――」

二刀流に切り替えようとしたハルモニア。


だが、それをキュリアは近寄り話し掛ける事で阻止した。

「ハルモニア様は、本当に今でも乙女なのですね」


ハルモニアは恥ずかしいとばかりに顔に両手をあてる。

そして両手は、キュリアの背中をドン(・・)と叩いて押した。


勢いに負け、キュリアは数歩前におどり出る。


ハルモニアは左右に首を振り、恥ずかしそうに呟く。

「いやですよ。乙女などと……、こんな老婆に……」


何とか態勢を整え、キュリアは振り向く。

「心の成熟も重要ではありますが、同時に若さも必要かと」


声の若いハルモニアが老婆であり、見た目の若いキュリアは歳を取らず少女の姿なのだ。

二人は正面に向かい合って、互いを見つめる。

「あら、素敵。もっと早く、キュリア卿に巡り会いたかったわ。

 そうすればきっと、お友達に成れたでしょうに……。

 そうだ、今からでも成れますでしょうか?」


「もう既に友ではないですか。私の事は『キュリア』と呼び捨てで良いのですよ」


「それは素晴らしい案ですわ。では、わたくしの事も『ハルモニア』とお呼び下さい」


「ありがとう、ハルモニア」


「それにしても、友に成るのに互いの年齢など関係ないのでしょうね」


「あまり歳は変らないはずですよ。

 というより、むしろ私の方が少し歳が……」


「そうでした……確かに。言われてみれば。見た目についつい惑わされて。

 けれども、わたくしは正直羨ましいです。キュリアの、その見た目の若さが」


「私はハルモニアの乙女心が羨ましい。

 ……心が少し、私はれてきているのかもしれない……」


曇り顔のキュリアに、ハルモニアの顔は清々しい笑顔で問答する。

「そういえば、この街で運命の出会いがあったのかしら?

 キュリアの心が、何だか乙女の様に感じられるのだけれど?」


キュリアは直ぐには答えず、自身の着ているマグマの様な真っ赤なドレスを見つめ、更に祭壇さいだんを見つめる。

そうして行き着いた視線の終着点は、私だった。

当然ながら、私はキュリアと目が合う。




私たちは、半年前に落ちたという飛来物・・・の情報を求めて教会へとやって来ていたのだ。

そして、ハルモニアと仲の良いキュリアに、まずは聞いて貰おうと。


話が盛り上がり、キュリアとハルモニアの二人が友として語り合っている。

この状況下で、私が「早く飛来物・・・の事を聞くように」と口に出すのは、あまりに無粋ぶすい

私とて、そこまで気が利かない鈍感ちゃんではない。


きっとキュリアは、なかなか聞き出すタイミングが掴めず、目が泳いでしまい、困って助けを求めるべくして私と目が合った。

――そうに違いない。


なので私は、キュリアに焦らずに( 、、、、)という意味を込めてウインクを飛ばしてみる。


すると、キュリアの顔は一瞬にして真っ赤になった。


マグマのドレスからの湯気に当てられたのであろうか?

――などと冗談を思い描いていると、キュリアはその場で卒倒した。


私は慌てて転移し、キュリアの身体を受け止めるのだった。





キュリアは私のあしを枕にし、礼拝堂の木製ベンチで横たわる。

閉じたまぶたの奥には、紫水晶アメシストの様な瞳が眠っている。

私を魅了する、宝石の様でもある。


淡い色の金髪は後ろで束ねられ、前髪はまぶたを隠す。

私はその長い前髪を指でかき分け、キュリアの顔を見つめる。


キュリアは、八英雄「戦乙女」と呼ばれている。

この世界において誰もが知り、そして憧れる存在なのだ。


「私は……」

紫色の瞳が世界を映し始め、私の黒い瞳にもえる。


「目が覚めて?」


「……はっッ!? これは……そのッ……」

キュリアは私の太股ふとももの上で、くるりと頭の向きを変え、外方そっぽを向く。

私のスカートはまくり上がった。

けれど藍色あいいろのドレスは長く、足下が出る程度で済んだ。問題はない。


「申し訳ございません……。私はどの位、眠っていたのでしょうか?」


「んー。お腹が空く位は経ったかしらね。

 キュリア、私の方こそ……ごめんなさいね。体調が悪い事に気が付かず」


「あッ……いえ、そのッ……違うのです」

キュリアはももの上で振り返り、呟いた。

お腹に視線と温かい吐息といきを私は感じる。


私はキュリアの髪を指でかしつつ、具合をうかがう。

「大丈夫そうならば……この後、食事にするのだけれど。

 例の飛来物の捜索は、明日に体調が戻っていればにしようかと」


「――……ぶ、です」

お腹の中で、キュリアの声がとどろく。


「私ならば大丈夫です……」

桜色に染まり上がった唇がうごめく。


手をベンチに突き、上半身を起こしたキュリアの顔が、目前にまで迫ってきていた。


桃色の唇を、私は見つめる。

「うん、血色けっしょくは良さそうね。良かったわ……」


手を握り締めて懇願こんがんしてくるキュリアに、私は負けた。


「分かったわ……。食べて、少し食休みをしたら行きましょう。

 キュリア、貴女も一緒にね」



Cパートへ つづく

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