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 異世界転移「GMコールは届きません!」   作者: すめらぎ
第I部 第五章 6節   <22話>
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<22話> 「食後にデザートはいかがですか?」 =Hパート=


イリーナに先導され、私とキュリアは正面口へといたる。

魔将すら悠々(ゆうゆう)と通れる巨大な扉は、既に開き放たれていた。


私は黄昏の剣を投げる構えを見せ、振り向く。

「キュリア、準備は良くて?」


「はい。強化は移動中に終わらせましたから」

後方にて灰馬はいばまたがり、キュリアは前傾姿勢となる。

その姿は、競走馬を操る様に見え、それでいて大型二輪をぎょするライダーの様でもある。


自動運転技術の向上により決して倒れることない2050年の大型二輪車は、ける楽しみを奪う物の様だが――。

目前の灰馬もまた同様に、騎手を地に平伏へいふくさせる事はないのであろう。


「ふふっ」


「お姉……さま、お顔、お顔」


魔法の存在するの地で、科学技術を思い起こし、そして重ねてしまった自分自身に、ついつい笑ってしまう。そう、笑わずにはいられなかった。

――滑稽だ。


イリーナは苦笑いし、キュリアは笑顔を私に返す。

この絶妙なすれ違い(・・・・)により、互いの緊張がほぐれてゆく。



イリーナもいつもの様に、アテーナーのローブを身にまとい、上から銀色の風の鎧を装備している。

その、いつもの当たり前の姿で、当たり前に隣にいる。

その事が、これ程に嬉しく胸躍るとは――。



さて、私の精神は研ぎ澄まされている。

程良い緊張感と、昂揚感こうようかんを小さな心臓に押し込めるのだ。

まるで、これから悪戯イタズラを働く子どもの様に。


時間にすると1時間に満たないのであろう。

けれど、何時間にも感じていたあの戦闘――。

それ程に濃密な時間を経たのだから、この先に何が居ようとも、ごとと感じてしまうに違いない。



「イリーナは補助で。あそこの入り口付近で待機。

 そうね……ピンチになるまでは、大人しく数でも数えていて。

 熱っついお風呂に浸かる、子どもの様にね」


「わかりましたッ!!」


どう分かったのか、分からないがイリーナはとにかく嬉しそうだ。

一緒に居るだけで幸せなのであろう。


何故そう思うのか? ――私もそうだからだ。


独り開け放たれた扉の陰に隠れかがむイリーナは、湯船につかる子ども様だ。

「1つ、2つ、3つ、」


両手の指を広げ、指を折りつつ数える姿は何とも愛らしい。

そして、3本目の指が曲がった時だ。

黄昏の剣を槍の如く、私は投げ放った。


直後に、自分自身の身体を外の広場上空へと転移させる。


コンマ数秒。それだけあれば十分だ。

投げた黄昏の剣が広場へと到達する前に、黄昏の剣を魔法で転移させる。

誘導装置の付いたミサイルの様に、黄昏の剣で標的を的確に射貫くのだ。


広場に居た上位魔人は、何が起きたのかさえ分からぬまま、胸元を貫かれた。

1体目を貫いた瞬間に更に転移魔法を掛ける。

2体目を貫き、更に3体目を貫き、4体目にさしかかる。


4体目は魔将であった。

纏っていた黒き魔法の鎧を突いたところで、黄昏の剣は止まる。

貫くには至らない。


けれど、その魔将も即座に真っ二つだ。

私が転移し、黄昏の剣を直接握り振ったからだ。


青い血が辺り一帯へと飛び散る。

ただし、私の姿はもうそこにはない。



敵に気付かれ、陣形や連携を取られる前に数を減らすのだ。

別の軽装な魔将の背部へと転移し、首を薙いだ。

魔将の背部に隠れたまま、影から再び黄昏の剣を水平に投げる。

そして、私自身も転移する。


首を刈られた軽装な魔将からは、多量の青い血が噴水の様に噴き出している。

さすがにこれでは、異変に気付かれてしまうであろう。


それでも黄昏の剣は、噴水に見とれている上位魔人を何体か貫けた。


私は剣を持たず、大上段に振りかぶりつつ転移する。

回復役とおぼしき黒い法衣の魔将を見付けたのだ。

転移した先は、魔将の頭上。私の手の内に黄昏の剣を戻して斬り落とした。



直ぐに飛び退くも、さすがに魔人どもが集まりだしてきた。

私を囲うのだ。


けれど、その行いは転移できる私にとって、何の意味もない。

愚策だ。


ただし、その事に気が付かれる前に殲滅するつもりな訳なのだが。


今は相手の策略に填まったフリを演じて、きょうじるとしよう。

幕はっくに上がっているのだから。



すると、背後で四つの光柱こうちゅうが生じる。

スポットライトを浴びたのは、私でなく後方にて囲いを形成していた魔人たちの様だ。


四つの光柱を颯爽さっそうと灰馬が駆け抜ける。

黒きたてがみは、光を受けて輝きなびく。

囲いに沿い、弧を描くように魔人たちが薙ぎ払われ、順に倒れていく。


二刀を広げ騎乗するキュリアの姿がそこにはあった。


灰馬は出入り口から一瞬にして距離を詰めたのだ。

足元にモーターでも付いているのでは無いかと疑いたくなる程の加速だ。


見とれていると、側面より弓による狙撃を受ける。

私は防戦へと回る。責められているのではない。

キュリアに譲ったのだ。


私に敵対心ヘイトが溜まり、ターゲットが向いている事によりすきを生じさせる。

灰馬から飛び降りたキュリアは、狙撃手に二刀を叩き付けた。

更に数体を薙ぎ払いつつ、私も元までやって来る。


互いに背中を付き合わせた。

キュリアの背中は、鎧越しだが冷たくはなかった。

私よりも背丈の低いキュリアの背中を、これ程までに大きく広く感じ様とは。


「いくわよ、キュリア!」


「私の運命は、貴女と共に! ……そして、私の運命のヒト……」


「へ?」


キュリアは背中から離れると、魔将へと突っ込んでいった。




その後、アッという間に二人で殲滅を終える。


「リル殿、結局私は1/3も仕留められませんでしたね……」


「その顔は、悔しいって顔ではなくて、嬉しそうね……キュリア」



イリーナが広場の入り口から身を乗り出す。

「え? 百数えている間に、30体近くいた魔将と上位魔人を殲滅せんめつ?」


イリーナの額が光る。

「ばっ……化け物じゃな」


「レディーに化け物って言葉は、どうかと思いますよ。

 ルドラさん(・・)……、ここまで聞こえていてよ」



キュリアは私の横で呟く。

「リル殿……」


「ええ、分かっているわよ」


倒したはずの魔人たちの遺体が直ぐに消えないのだ。

イシズの力ではないであろう。

どちらかと言えば、エミアスの甦生魔術に近いものであると直感が指し示す。

「誰かが魔人を甦生しようとしている?」


だが、結果はその予想を大きく上振れさせたものだった。

遺体は魔素と共に、集結し禍々(まがまが)しい肉塊と化す。

それと同時に、巨大な門が現われた。

審判の門とでも呼ぶべきであろう、その門が開くと、魔人30体を生け贄とし、名を持つ(ネイムド・)怪獣(モンスター)が現われた。


  ――ケルベルス――

  三つの頭を持つ狂犬



「イリーナ、出番よ!」


イリーナはキュリアの愛馬に跨がり、こちらへやって来る。

グレイヴと盾を取り出して装備した。

青い髪は靡き、純白のローブは両足部がはためく。


貴女きじょの名は、イリーナ。

邪神ルドラを胎内に宿した聖女。

そして、私の大切な友であり、家族。……妹。


――聖女イリーナ。



「私たちの戦いは、これからよ!!」


「はい! お姉様!」




23話へ つづく

22話をお読みいただき、ありがとうございます。


これにて、第5章は終了となります。おそらく、十数万字。

書き始めてから1年も掛かってしまいました……。

長かった。本当に長かった。


ここまで読んで戴いた事、改めて心より感謝いたします。

多くのブックマーク、評価、Twitterでのフォロー、応援、リツイート、

そしてキャラクターに命を吹き込んで下さったヒトこもる先生、

皆さまに支えられ今日に至る事が出来ました。


ありがとう、リル。 ありがとう、イリーナ。

私はこの1年、何物にも代えがたい素敵な冒険をする事が出来たよ――。



さて第I部は、エピローグである第6章で終焉を迎えます。

この世界の行方を、見守って下さい。


読者サービスの23話は、書き溜めてから連載する為、

少しお時間を戴く事になると思います。

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