<22話> 「食後にデザートはいかがですか?」 =Eパート=
「アハハ。てー、リーナ。何だい、あの赤髪のお姉様は。反則じゃないかなー?」
「まさか、おめおめ退散する事に――なろうとは」
「瞬間的な判断力、それにあの大胆不敵さ。見事にぶん回されちまいやしたよぉ。
正直恐れ入ったわ」
「その割には――、嬉しそうですよ」
「そう見えるってぇかい? そいつぁ、誤解でさぁ」
「口元が、緩んでいますよ。
――それにしても、これでは大幅な予定の変更が必要ですね」
「はぁあ、ペンネ……。
お前がリーナに会えるのは、まだ先になりそうだ。仕方がない、お家に帰ろう」
「宜しいのですか? 本当はあの者達と共に――」
「もしお姉様でなく殿方だったら……、あたいは確実にあっち側だったぁねぇ」
「何ですか、それ――」
「姉御ってのも、まぁ、悪くぁねぇかっ」
「そういう話では無くて――ですね……」
「かっかっかっ。なんつっても、アッチぃ倒す方が面白そうじゃーねえですかぁ。
まぁ、またぁ、相見える機会もありゃぁすよ。ねー、そうでぇしょ? カルキ」
「どうなさいました? ルドラ様」
「嫌な感じがしての……。あ奴らであろうな……」
◆
足音が近づく。
ウエディングドレスの様な刺繍が施された純白のドレス。
そこから伸びた脚より出でた純白の足音だった。
「お姉様……」
「イリーナ、おかえりなさい」
私は抱きついてきたイリーナを受け止める。
寄り掛かり、身体を委ねてきた。
誰かの始めた歓声が、やがて満場の拍手へと代わる。
その拍手は暫く続き、熱を帯びた音が、私の心をも躍らせた。
あまり注目されるのは得意ではなく、むしろ苦手なのだ。
でも、悪い気分ではない。こうして脚光を浴びるのは――。
金装飾の施された赤いグラスを眺める。
グラスの先にあるテラスへと目を向けると、ソフィアがいた。
紫色のワンピースにリボンが付いた、可愛いドレス姿だった。
ドレスの艶やかさとは対照的な、どこか寂し気な雰囲気を感じ、ソフィアの元へと私の足は動く。
吹き上げる爽やかな風を感じ、片手で髪の毛を抑えつつテラスへと出る。
すると、束ねられた髪が目の前で揺れていた。そこにはキュリアも居たのだ。
「珍しい組み合わせ……でもないわね。もう戦友同士だものね」
己の命を仲間に託し共に戦う。そこには家族をも超える絆すらあると、私は知っていた。
けれどVRMMO時代の仲間の顔を浮かべ、私は直ぐ別の考えに至る。
それは戦友だからではなく、既に家族だからなのかも知れない――と。
青いグラスに注がれたお酒をキュリアは口にする。
「リル殿。今日ぐらいは……と、私も嗜んでいます」
「イイんじゃないかな? 飲みたい時に飲むのが、美味しいんだよ」
「では……味わう事と致します」
そういえばソフィアはお酒飲んで良いのか? ――との疑問が湧く。
幼く見えて200歳超えてるし、大丈夫なのだろう? ――そんな思いを抱く。
見つめると、ソフィアの目の下は明らかに赤かった。
それどころか普段だと血色の悪く見える青白い肌が、赤く染め上がり火照って見える。
「姉様、私……悔しい。もっともっと、もっともっと、強くなりたい。
大切な仲間を友を護れるようになりたい」
こちらを見ずにソフィアはそう告げ、夜空を見上げる。
私はソフィアの首から両手を伸ばした。
そして、母親の様に背中から抱きしめる。
キュリアは私の赤いグラスを受け取り、寡黙に徹してくれていた。
青いグラスに口を付け、何処か遠くを見つめている。
ソフィアを抱きつつ、私もキュリアと一緒に遠くを見つめる。
そして、ソフィアの眺めている夜空へと視線を掲げた。
「黄色の月」に「朱色の月」。そこには2つの月があった。
ここが元いた世界では無い事を、私は改めて実感する。
それと同時に、私には仲間が、家族がいて、独りではないのだと感じ、視線を堕とす。
「ソフィア、私も同じ思いよ……。みんなに、助けられてばかりだもの」
「姉様……」
ソフィアは、私に抱かれたまま振り向く。
「もー。こんな所にいらしたのですか、お姉様!」
青い髪が月に照らされて透け、イリーナは美しかった。
「みんな揃っていて、ズルイですよ! 私にもお姉様とお話しさせて下さい!」
イリーナの頬が膨れる。
熱を帯びた雫は、露と消えた。
ソフィアはそんなイリーナの顔を見て、クスっとする。
「リーナちゃん、やぁ……、その顔はズルいよ」
「だってアレから全然お話しできていなくって、お礼すらまだなのですから!」
「あー、そうだったわね。あの後も残っていた魔将の討伐とかがあっからね……」
ソフィアは私の両腕から離脱すると、イリーナの膨らんだ頬を指で押し込んだ。
「ぷ〜う! ……って、もう! ソフィーまで……」
その場にいる皆の表情が、一斉に明るくなった。
いつの間にか、エミアスまでキュリアの隣にいる。
普段、表情を崩さないエミアスが、私たちのやりとりを見て笑みを溢していた。
イリーナは私の腕を、抱える様に両腕で掴んだ。
「皆がこちらへ来てしまって、どうするのですか……」
私はイリーナに牽引され、出航の時を迎えた。
助け船を求め、キュリアを見つめ視線で合図を送る。
キュリアは飲み干した青いグラスを眺めていた。
私の送った合図を後目に、赤いグラスに口を付けた始めた。
実に楽しそうに飲んでいる。
私はソフィアとエミアスを見つめたが、二人は目線さえ合わせてくれなかった。
「お姉様、一緒に中へ戻りましょうよー。
じゃあ、デザートはいかがですか? できたての甘いお菓子もありますよ」
「えっと……。どうしようかな……」
「甘いお酒も用意してありますよ? もの凄く強いらしいですが」
「え? 何それ! 直ぐ行くしッ!」
Fパートへ つづく




